認知症が招く法的トラブル  その2

認知症が招く法的トラブル  その2

タイトル

~認知症の親の財産管理から発生する相続トラブルの現実~

1 相続争いが起こる場面とは?

皆さんは、相続争いをしている人たちを見て、​どうして亡くなったお父さんやお母さんの財産のことであんなにも熾烈な争いをするんだろうと疑問に思ったことはないでしょうか?

​そもそも、​相続争いというのは、どういう場面で起こってくるのでしょう?​

典型的な相続争いは、お父さんやお母さんが亡くなった後に​、兄弟姉妹間で、誰がよりたくさんの遺産を取るかで争奪戦になるというものです。

しかし、近時、認知症患者が増加していることに伴って、親が認知症で、子がその親の財産管理をしていた場合に、その親が亡くなった後に、他の相続人から、財産管理をしていた子が、財産管理の過程で、親の財産を窃取したのではないかとか、横領したのではないかと疑われて争いとなるケースが増加しています。

この事案について、二つの事例を用いて考えていきましょう。

 

2 親の財産を食いつぶしていたケース

私の母は、長い間認知症を患っていました。この数年間は、私の顔を見ても誰だかわからないくらいまで認知症が進行していました。母は長男夫婦と同居しており、先日、老衰で亡くなりました。父はすでに亡くなっているので、相続人は、長男と私の2人だけです。四十九日も過ぎ、長男と私とで、遺産分割の話になりました。母は、昔、家族で住んでいた一軒家や、現預金3000万円を所有していたはずですが、長男の話ではその一軒家は売却し、現預金もほとんど残っていないというのです。しかし、母は認知症を患っていましたから、不動産を売却をすることなどできるはずがないのです。また、母が自分で預金を管理できるはずはありませんから、そのほとんどのお金は長男夫婦が自分たちのために使い込んだとしか考えられません。このような場合、私はどのようにして、兄から不動産や現預金を取り戻せば良いのでしょうか?

このケースの場合、長男は母親の財産の管理権限は無いわけですから、長男が行った不動産の売却や、預金の引き出しといった財産的処分行為はすべて無効です。したがって、母親は、不動産の売買契約が無効である以上、不動産の買主に対して、所有権に基づいて返還請求をすることができますし(つまり一軒家を返せと言える)、長男に対して、不動産を勝手に処分したことに対する損害賠償請求をすることができます。また、長男が勝手に銀行預金3000万円を引き出したことについても、母親は、長男に対して、同額の損害賠償請求をする(つまり3000万円を返せと言える)ことができることになります。

しかし、母親は重度の認知症でしたから、生前にこのような権利を行使できないまま死亡しています。相続人は、長男と相談者の2人ですから、相続分は長男2分の1、相談者2分の1ということになり、この持分割合で、これらの権利を相続取得することになります。

こうして相談者は、不動産の取得者に対して、2分の1の相続共有持分に基づいて返還請求をすることができますし、長男に対し、不動産を勝手に売却したことに伴う損害賠償請求をすることができます。また、相談者は、長男に対して、引き下ろした預金額3000万円の2分の1である1500万円の損害賠償請求をして被害回復を図ることができることになります。

なお、このようなケースで、長男に対して刑事責任は問えないのかという質問を受けることがあります。長男の行為は、窃盗罪ないしは横領罪に該当する犯罪なのですが、刑法は、一定の親族間の行為については、その刑を免除することとしており、本件の場合も長男は刑が免除され、処罰されることはありません。​

 

3 善意で親の財産を管理していたケース

上述の長男のように母親の財産を使い込んでいたというような悪質な事例であれば、後に、長男が損害賠償請求を受けるようなことになっても自業自得でしょう。しかし、現実の相続争いの中では、善意で認知症の親の財産管理をしていたにもかかわらず、その親が亡くなった後に、他の相続人から財産を使い込んだのではないかと疑われて損害賠償請求を受けるということがあります。

私は認知症の父の面倒をみて参りましたが、残念ながら半年前に他界しました。相続人は父の実子である兄と私の二人で、現在、遺産分割協議が進められています。私は、父の生前に、父親名義の銀行預金のキャッシュカードからお金を引き出しては、日用品の支出、入院や介護施設入居にかかる費用などを支払って、父の面倒を見続けてきました。そのために使った金額は500万円を超える金額になっています。しかし、残念ながら兄は、私が父のために父の預金を使用したとは信じてくれず、「お前は父親の預金を使い込んだのだろう!」と強く疑っており、兄の相続分に見合ったお金を返すように請求されております。しかし、私は、父のお金を自分のために使い込むような事はしてないのです。このような場合私は遺産分割協議で兄に対してどのようにすればよろしいのでしょうか。

この相談者の場合には、善意で父親の財産の管理をしていました。しかし、父親から財産管理の権限を授与されずに預金を引き出していたのだとすれば、無権限で預金を費消したことになり、損害賠償しなければならない可能性があります。

もっとも、このような事案であれば、真に父親のために使用したことが証明できるときは、種々の理論構成をして、損害賠償請求の対象とされないことも多くあります。

ただ、現実には、認知症の親の介護をしているときに、帳簿をつけたり、領収書の管理まで行って出入金を明確にしていないことが多いでしょう。

そうなりますと、後日、紛争になったときに、真に認知症の親のために支出したということが証明できず、その金額については使途不明金として損害賠償請求を受けてしまうという残念なケースもあり得るのが現実です。

ですから、この相談者の場合も、まずは父親の預金からおろした金額を、父親のために使用したことをできるだけ証明できるように準備し、証明できないものについても、自分がどのようにして父親の介護をしていて、そのためにどのくらいの支出があったのかを説得的に説明して交渉すべきでしょう。

 

4 事後的救済よりも、事前に法的手段を講じるべき!

今回の二つの事例は、どちらも、認知症の親の存命中に何らの対策もすることなく、なくなった後の事後的な救済手段についてご説明いたしました。しかし、事後的な救済では、どうしても壮絶な相続争いが避けられません。両事例とも、相談者が、父親や母親が存命のときに法的手段を講じておけば、亡くなった後に、ここまで壮絶な相続争いをすることを防止できたのです。

それでは、どのような対策をしておけば良かったのでしょうか?その点については、その3においてご説明します。

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