育児休業(育休)復帰後の職務変更・賃金減額について

育児休業(育休)復帰後の職務変更・賃金減額について

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育児休業復帰後の職務変更・賃金減額について

育児休業から復職した従業員について、「子供が小さいから仕事に専念できないだろう」などとして会社が一方的に担当業務を変更したり、賃金を引き下げたりすることはできるのでしょうか。

雇用機会均等法は、女性労働者について、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めています(雇用機会均等法9条3項)。

また、育児・介護休業法は、労働者について、育児休業申出等、育児休業又は出生時育児休業期間における就業に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めています(育児・介護休業法10条)。

したがって、育児休業を取得したこと自体をもって、従業員を解雇したり、賃金を減額するなどの不利益な取り扱いをすることは、雇用機会均等法及び育児・介護休業法に違反し、無効となります。

使用者である会社には人事権がありますので、従業員の復帰後の状況に応じて労働条件の変更を行うことが直ちに違法となるわけではありませんが、必要かつ合理的な理由に基づくものでなければ、人事権の濫用として無効となります。

本人の話も聞かずに、子供が小さいうちはろくに仕事ができないだろうなどと一方的に決めつけて職務変更を命じることは避けなければなりません。

近時の裁判例では、一般に、基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たると判断されていますので、注意が必要です。

参考裁判例:東京高裁令和5年4月27日

1 事案の概要と裁判所の判断

この事件は、クレジットカード発行会社において、セールスチームリーダー(等級3 5)として37人の部下をもって勤務していた従業員が、産前休業と育児休業を経て復帰した後、チームリーダーではなく、部下が一人もいないアカウントマネージャー(等級35)に配置され、電話営業業務を担当することになったという事案において、この措置が、雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条、公序良俗等に違反すると主張して、会社に対して損害賠償請求を求めたケースです。

この裁判例では、まず、復職した従業員を部下が一人もいないアカウントマネージャーに配置し、電話営業業務を担当させたという措置が、妊娠、出産、育児休業等を理由とするものであるか、という点についてこれを肯定しました。次に、この措置が、当該従業員にとって不利益な取扱いに当たるかという点についても、復職後に就いたアカウントマネージャーは、妊娠前のチームリーダーと比較すると、その業務の内容面において質が著しく低下し、給与面でも業績連動給が大きく減少するなどの不利益があったほか、何よりも妊娠前まで実績を積み重ねてきた当該従業員のキャリア形成に配慮せず、これを損なうものであったといわざるを得ないと判断しました。

また、当該従業員が、自由な意思に基づいて当該配置を承諾したものと認められる客観的合理的理由もなく、この措置について、雇用機会均等法9条3項又は育児・介護休業法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するということもできないとして、これらの法律が禁止する「不利益な取扱い」に当たるほか、被控訴人の人事権を濫用するものであって公序良俗にも反すると判断しました。結果として、慰謝料200万円とその1割の20万円の弁護士費用の合計220万円の損害賠償請求が認められました。

なお、本件には、当該従業委員が育児休業中に、会社の組織変更により、かつて当該従業員がリーダーをしていたチームは消滅したという事情があったため、チームリーダーにしていないこと自体は、会社の人事権の範囲内であり適法としています。

2 裁判所の判断のポイント

・不利益な取り扱いは原則として無効

・女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業等を理由として、労働者につき、育児休業申出等、育児休業等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは、同各項に違反するものとして違法であり、無効である

・一般に、基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たり、不利益な配置の変更を行う事業主の措置は、原則として、雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条の禁止する取扱いに当たる

・例外的に禁止する取扱い該当しない場合

・当該労働者が当該措置により受ける有利な影響及び不利な影響の内容や程度、当該措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき

・事業主において当該労働者につき当該措置を執ることなく産前産後の休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、当該措置につき均等法9条3項又は育介法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき

上記の裁判例を参考に、育児休暇明けの処遇が無効にならないため、また、従業員とのトラブルを避けるためには、復職後の職務変更・賃金減額については一方的な決定を行うのではなく、まず従業員に対しその必要性を十分に説明し、合意を得るように努力することが重要です。

なお、令和3年1月1日から改正育児・介護休業法施行規則が施行され、育児や介護を行う労働者が、子の看護休暇や介護休暇を時間単位で取得することができるようになりました。これに限らず労働条件に関する法律は頻繁に改正がなされていますので、自社の就業規則が改正法に沿った内容となっているか、専門家に相談のうえ見直しておきましょう。

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