Q:会社が従業員を解雇しても、解雇の要件を満たさない場合には解雇が無効となると聞きました。解雇の要件とは具体的にどのようなものでしょうか? 

Q:会社が従業員を解雇しても、解雇の要件を満たさない場合には解雇が無効となると聞きました。解雇の要件とは具体的にどのようなものでしょうか? 

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Q:会社が従業員を解雇しても、解雇の要件を満たさない場合には解雇が無効となると聞きました。解雇の要件とは具体的にどのようなものでしょうか? 

A:解雇の際の最大のポイントは、解雇の要件(客観的に合理的な解雇理由が存在し、解雇という方法を取ることが社会通念上相当であると認められること)を満たしているかどうかという点ですが、この点をもう少し詳しくみていきましょう。

まず、一言で「解雇」といっても、解雇に至る理由によって、
・普通解雇
・懲戒解雇
・整理解雇
の3種類に分けられ、解雇が認められる要件も少しずつ異なります。

普通解雇

普通解雇とは、例えば勤務態度の不良や能力不足、心身の健康状態の悪化など、従業員側に生じた雇用契約を継続できない事情を理由に解雇する場合をいいます。
一般的には、就業規則の中にどのような場合に普通解雇になるかということが定められていますので、自社の就業規則を確認してみてください。

解雇について規定した労働契約法16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。この条文は、過去に蓄積された裁判例で明らかにされた有効な解雇といえるかどうかの要件を明文化したものであるため、「解雇権濫用法理」と呼ばれることがあります。

この規定により、会社側が就業規則の定めに従って従業員を解雇した場合であっても、それが「客観的に合理的な理由がなく」、「社会通念上相当であると認められない場合」には、当該解雇は「無効」となることになります。
具体例を見てみましょう。

ⅰ)勤務成績不良、能力不足を理由とする普通解雇

多くの会社の就業規則には、解雇事由として、「勤務成績が著しく不良のとき」、「業務能力が著しく劣っているとき」などが規定されていますが、労働契約法16条により、就業規則に定められた事由に該当するからといって直ちに解雇できるわけではありません。

例えば、新卒採用の場合など、業務遂行にあたって特定のスキル、能力を前提として採用されたわけではない場合には、勤務成績不良、能力不足を理由にいきなり解雇することは許されません。会社としては、まずは必要な教育・訓練を行い、従業員の能力を向上させるように努力をしなければならないと考えられています。

また、本人の能力に見合った職務への配置転換が可能な場合には、配置転換を行って解雇を回避するための措置を尽くす必要があり、会社として実施すべき教育や解雇を回避する努力を行ったにもかかわらず、従業員の能力不足や勤務成績の不良が顕著であり、または従業員自身の努力不足でこれを改めない場合などに初めて解雇が可能となります。

ⅱ)傷病、心身の故障を理由とする普通解雇

多くの会社では就業規則において休職制度が定められています。休職制度というのは、傷病で業務が遂行できない場合の解雇猶予措置であると理解されていますので、原則として、休職期間を経ない解雇は解雇権の濫用として無効となると考えられます。

休職期間を経て、休職期間満了時に解雇する場合には、休職期間の満了時点において復職することができるかどうかがポイントとなります。実際には、医師の判断によらざるを得ない場合が多いと思われますので、会社としては医師の診断書の提出を求め、または会社指定の産業医の受診を求めるなどして、復職の可能性を検討する必要があります。

また、休職期間満了時において、従前の業務への復職は不可能であるものの、軽易な作業は可能である場合には、どのように考えればよいのでしょうか。
この場合、雇用契約において業務や職種限定がある場合には、もともとそれ以外の業務・職種への配置転換は予定されていないため、配置転換を行わず解雇しても原則的には解雇は有効と考えられます。
他方で、業務や職種限定がない場合においては、個々の事案に応じてケースバイケースで解雇の有効性が判断されていますので、会社としては、傷病の程度、配置転換の可能性などを踏まえて慎重に解雇の是非を判断する必要があります。

懲戒解雇

懲戒解雇とは、従業員が会社の秩序違反を犯した場合にこれに対する制裁として会社が行う懲戒処分のうち最も重い処分のことをいいます。
一般的に、就業規則には「懲戒」の規定が置かれており、違反の事由・程度によって、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの種類が定められているのが一般的ですが、就業規則に定められたこれらの懲戒処分のうちで最も重い処分が懲戒解雇です。

懲戒処分については数多くの裁判例の蓄積があり、懲戒処分が有効となるためには、
(1)懲戒事由及び懲戒の種類が就業規則に規定されていること
(2)規定に該当する懲戒事由が存在すること
(3)懲戒処分に際して弁明の機会の付与等の適正手続が実施されていること
(4)懲戒処分に合理的理由があり、懲戒処分が社会的に相当であること
が必要となります。

特に、懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分になりますので、上記のうち(4)の要件は極めて厳格に判断されることになります。

懲戒解雇が有効といえるか否かについては、当該会社の事業内容や当該従業員の職務、違反行為の種類や程度・態様など様々な要素を考慮して検討する必要がありますが、一般的には、
(1)業務上の地位を利用した犯罪行為が行われた場合(経理職員による横領など)
(2)会社の名誉を著しく棄損する重大な犯罪行為が行われた場合(殺人、強盗、強姦等)
(3)重大な経歴詐称があった場合(業務に必要となる特定の資格の有無)
(4)2週間以上の長期間の無断欠勤
(5)懲戒処分を受けたにも拘わらず同様の非違行為が繰り返される場合等
に懲戒解雇ができるものと理解されていますが、懲戒解雇が有効とされるケースは稀ですので、懲戒解雇を選択する際には、十分に要件を検討し慎重に判断する必要があります。

整理解雇

普通解雇と懲戒解雇が従業員側の事由に基づくものであるのに対し、整理解雇とは、会社の経営上の理由に基づいて行う解雇の場合をいいます。経営状態の悪化によるリストラが典型であり、従業員側の事由による普通解雇や懲戒解雇とは異なる観点から解雇の有効性が判断されることになります。

整理解雇についても、数多くの裁判例が蓄積されており、これにより、
(1)人員削減の必要性が認められるか
(2)解雇を回避する努力をしたかどうか
(3)解雇の対象となる者の人選基準や選定に合理性が認められるか
(4)解雇手続に妥当性があるか
という4要件が必要であると理解されてきました。

もっとも、近年においては、会社全体ではなく工場のみや特定の事業部のみを閉鎖するケースも多くなり、また、アウトソーシングの活用や国際競争力の確保を目的とした組織再編など、整理解雇が行われる場面が多様化していることから、裁判実務においては、上記の4要件は厳格な必要要件ではなく、判断要素のひとつであるとした上で、会社の事業内容、従業員数、資産状況、負債や収益の規模など様々な事情を総合的に考慮した上で解雇の有効性を判断するようになってきています。

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