同一労働同一賃金の基礎知識とポイント

同一労働同一賃金の基礎知識とポイント

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同一労働同一賃金の基礎知識とポイント

労務管理の分野でよく耳にするようになった「同一労働同一賃金」ですが、近年、有期雇用労働者も対象に、法律上のルールとして明確化されたことをご存じでしょうか?
ここでは同一労働同一賃金の基礎知識から、経営・労務管理においてどのような点に注意すべきか解説します。

<目次>
1.同一労働同一賃金とは
2.同一労働同一賃金の対象となる従業員
3.解消すべき待遇差と説明義務
・基本給
・賞与
・各種手当
・退職金
・休暇
・福利厚生
・教育訓練
4.まとめ

1.同一労働同一賃金とは

日本ではフルタイム型のいわゆる正社員とパートタイム労働者などの間で待遇に大きな違いがあることも少なくありませんが、同一の労働に対して不合理なほど異なった待遇を与えることは相当とは言えません。

同一労働同一賃金とは、同一の労働に対して支払われる賃金に雇用形態による不合理な格差があってはならないとの認識に立ち、いわゆる正社員とパートタイム労働者等との待遇差をなくしていこうという考えです。根拠となる法律は①労働契約法(2018年6月改正により同一労働同一賃金を規定した20条は削除されました)②短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)③労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)です。

パートタイム・有期雇用労働法は大企業においては2020年4月1日から、中小企業においては2021年4月1日から施行されています。またあわせて労働者派遣法も改正になりました。
自社の対応が十分かどうか不安のある事業主の方は正確な知識を身に付け、対応していきましょう。

 

2.同一労働同一賃金の対象となる従業員

パートタイム・有期雇用労働法の対象となるのは短時間労働者や有期雇用労働者です。短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される無期雇用フルタイム型の労働者より短い者をいいます。この要件を満たせば有期雇用であっても無期雇用であっても短時間労働者に該当します。有期雇用労働者とは雇用期間の定めがある労働者のことです。

そして、職務内容(業務内容のみならず責任の程度を含む)や、職務内容・配置に関する変更の範囲が正規雇用労働者(無期雇用フルタイム型の労働者)と同じである非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者)に対しては、雇用形態を理由とした差別的な取り扱いをしてはなりません。

したがって、まず正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務の範囲を明確にし、雇用形態ではなく職務内容や勤務形態によって処遇を決定する必要があります。

 

3.解消すべき待遇差と説明義務

今回の改正により、雇用形態にかかわらず、同一の職務内容で、職務内容・配置に関する変更の範囲も同一である従業員には、同一の待遇を与えることが原則となりました。ここでいう待遇としては、基本給、賞与、役職手当や精皆勤手当などの各種手当、福利厚生、教育訓練、安全管理などがあります。

さらに、短時間労働者・有期雇用労働者が正規雇用労働者との待遇の違いについて説明を求めた場合、事業主は待遇差の内容や異なる待遇を行う理由を説明しなければなりません。十分説明できるよう準備するとともに、必要な場合は待遇を再検討しましょう。

基本給

基本給が労働者の能力や経験に応じて決定される場合、同一の能力や経験を有するのであれば、能力に応じた基本給は同一にしなければなりません。一般にインセンティブと呼ばれる業績に応じた基本給についても、同一の業績に対しては同一の、異なる業績に対しては業績に応じた基本給を支払う必要があります。

能力の向上に応じて昇給させる場合は、正規雇用労働者と同程度に能力が向上した非正規雇用労働者は同程度に昇給させましょう。能力の向上に違いがある場合は向上の度合いに応じて昇給させなければなりません。

なお、待遇の決定基準について正規雇用労働者と非正規雇用労働者でルールに違いを設けている企業もあります。たとえば正規雇用労働者には経験や能力に応じて基本給を支給し、非正規雇用労働者には職務に応じて基本給を支給するケースです。

このような違いは「将来の役割期待が異なる」といった主観的・抽象的な説明では不十分です。職務の内容などの客観的・具体的な実態に照らし合理的でなければなりません。

賞与

企業の業績への貢献に対して賞与を支給する場合、貢献に応じて支給する部分について同程度の貢献に対しては正規雇用労働者にも非正規雇用労働者にも同じ賞与を支給しなければなりません。ここでも雇用形態ではなく具体的な実態に応じて判断することになります。

したがって正規雇用労働者には貢献の大小にかかわらず何らかの賞与を支給するが非正規雇用労働者には一切賞与を支給しないといった取り扱いは問題となる可能性があります。正規雇用労働者は賞与をもらえるが、非正規雇用労働者は一切もらえないとの措置は従業員同士の関係を悪化させたり、モチベーションの低下につながったりする可能性もあるため、十分注意しましょう。

しかしながら、メディアでも多数取り上げられ注目を集めた大阪医科薬科大学事件判決(令和2年10月13日付最高裁判決)では、有期雇用のアルバイト職員に対し賞与を支給しないことは、不合理な待遇差にはあたらず労働契約法旧20条に違反しないという判断も示されています。同一労働同一賃金の考え方において、どのような待遇差であれば合理性があるといえるのかは各事案に応じて判断されることになりますが、賞与を支給する目的を踏まえて不合理な待遇差解消の検討をしなければなりません。

各種手当

企業が労働者に対して支払う手当には様々なものがありますが、不合理な待遇差別の禁止は全ての手当に妥当します。たとえば役職手当であれば、同一の役職についている労働者には正規雇用・非正規雇用のいずれであっても同一の役職手当を支給しなければなりません。その他の手当についても同様で、厚生労働省のガイドラインでは特殊作業手当、時間外労働手当、休日出勤手当、通勤手当、食事手当などがあげられています。

なお、同じ時間数の休日労働を行った正規雇用労働者と非正規雇用労働者がいる場合に、平日の労働時間が短いからとの理由で非正規雇用労働者の休日出勤手当を安くする取扱いは規制に違反する可能性があります。手当は企業により様々な名称のものがありますから、抜けがないようしっかりチェックしなければなりません。

なお、日本郵便事件判決(最高裁令和2年10月15日付判決)では正社員に対して扶養手当、年末年始勤務手当、年始の祝日給を支給しているにもかかわらず契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であるとの判断が示されています。

退職金

厚生労働省が作成した「同一労働同一賃金ガイドライン」には、退職金について同一の取り扱いを求める直接の記述はありません。しかし、だからといって不合理な待遇差を設けることが是認されるわけではないと考えられます。

近年注目されたメトロコマース事件判決(令和2年10月13日付最高裁判決)において最高裁は有期雇用労働者と無期雇用労働者の間で退職金の支給に関する相違がある場合、その相違が不合理なものとされることはあり得るとした上で、不合理なものとなるかどうかの判断は退職金の性質や支給目的などを踏まえて考慮する必要があるとしました。

この事件では退職金の違いが不合理とはいえないと判断していますが、最高裁は有期雇用労働者には一切退職金を出さなくてもよいと判示したわけではありません。判例を踏まえ、どのように退職金を支給するか、改めて検討していくことが望ましいと言えるでしょう。

休暇

慶弔休暇・病気休職については非正規雇用の労働者にも正規雇用の労働者と同一の休暇を認めなくてはなりません。なお、病気休職については、無期雇用型の短時間労働者には正規雇用労働者と同一に認め、有期雇用労働者には労働契約が終了するまでの期間を踏まえて正規雇用労働者と同一に認める必要があります。

また慶弔休暇以外に法定外の有給休暇を与えている場合には、勤続期間に応じて取得を認めている部分について、勤続期間が同一の場合、正規雇用・非正規雇用のどちらの労働者にも同一の休暇を認めなければなりません。有期雇用の労働者が契約を更新していれば、勤続期間は当初の契約開始時からの合算により算出することに注意してください。

業務時間に応じたリフレッシュ休暇を認めている企業が短時間労働者には所定労働時間に比例した分の休暇を認めるといった措置は差し支えないものと考えられます。

福利厚生

企業が付与する全ての福利厚生について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で不合理な取り扱いをしてはいけません。

たとえば給食施設・休憩室・更衣室がある場合、同一の事業所で働く従業員には同じように使用を認めなければならず、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で差異を設けることは許されません。

また転勤者用に社宅を設けている場合においては、正規雇用社員と同一の支給要件を満たす非正規雇用労働者には同じように社宅を利用できるようにする必要があります。

教育訓練

現在の職務のために教育訓練を行う場合、同一の職務を行う正規雇用労働者と非正規雇用労働者には同一の教育訓練を施す必要があります。

職務の内容が違っている場合には、職務の違いに応じた教育訓練を行わなければなりません。雇用形態ではなく職務の内容により判断することに注意してください。

また厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」は、安全管理について同一の業務環境に置かれている労働者に対しては同一の安全管理措置をとらなければならないとしています。

4.まとめ

同一労働同一賃金の規定が整備されたことにより、適切な措置を行うことは法律上の要請となりました。これに反した場合には、従業員から損害賠償請求などの民事訴訟を提起される可能性もあります。

また、SNSなどが発達した現代では、インターネットを通じて同一労働同一賃金が守られていないことが口コミで広まるおそれもあり、企業のイメージに大きな傷がつくリスクも無視できません。

一方で適切な待遇を整備すれば職場のアピールポイントとなり、優れた人材に長く働いてもらえる点でビジネスチャンスでもあります。

同一労働同一賃金への対応でお困りの企業様はぜひ一度ご相談ください。
 
 

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