従業員を解雇できる場合とは

従業員を解雇できる場合とは

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従業員を解雇できる場合とは

Q. 当社には以下のような問題のある社員がおり、できれば解雇したいと考えています。解雇することは可能でしょうか?
① 社員A : 病気が発覚し入院することとなった
② 社員B : 勤務態度が悪く、周りの社員の士気を下げるなど悪影響を及ぼしている
③ 社員C : 教職として中途採用したが、教職に必要な基礎学力が著しく不足していることが採用後に判明した
④ 社員D : 入社時に提出した書類において経歴を詐称していたことが発覚した
⑤ 社員E : 既婚者であるにもかかわらず、同じ部署の未婚の同僚社員と交際していることが発覚した

A. 解雇が有効とされるためには、解雇することが「客観的に合理的な理由」を有し   ており、「社会通念上相当である」と認められることが必要です。実務では、かかる解雇の有効要件を充たしているかについては、会社側に厳しく判断されており、個別の事案において解雇を行うかどうかについては慎重な検討が必要です。

以下ではどのような場合に解雇が有効であると認められるのか、具体的にご説明します。

1 解雇権濫用の禁止

民法上は、期間の定めのない雇用契約について、使用者(会社)はいつでも解約の申入れ(解雇)をすることができるとされており、解雇が有効となるための要件は定められていません(民法627条1項参照)。
もっとも、使用者が自由に社員を解雇することができるとすると、社員の生活が著しく不安定になるなどの影響が大きいため、労働契約法16条において、解雇が有効と認められるための要件が定められています。

労働契約法16条は、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と定めており、これを解雇権濫用といいます。
そこで、解雇する前に、解雇権濫用で解雇は無効であるとされないために、当該事案において解雇することが「客観的に合理的な理由」を有しており、「社会通念上相当である」と認められる場合に当たるのかを十分に検討する必要があります。

2 どのような場合に解雇は有効となるか

(1) 解雇理由

まず、解雇の理由が客観的に合理的なものである必要があります。
冒頭の事例については、以下のように考えられます。

①社員の入院
数週間程度の入院で病気自体が治療可能な場合には、解雇は原則認められないでしょう。
また、就業規則には解雇事由として「病気により●●間休業したとき」と定められている場合が多いと思いますが、その場合には就業規則に定められた期間より短期間で解雇することは原則認められませんし、休職期間を経ない解雇は原則として解雇権の濫用として無効となると考えられます。もっとも、将来にわたって回復の見込みがないことが明らかである場合には例外的に休職期間を経ない解雇も認められ得るでしょう。
なお、病気の社員を解雇する際には、労働基準法による時期の制限にも留意してください(後記<法令による解雇の制限>をご参照ください)。

②勤務態度や勤務状況の不良
単に勤務態度や勤務状況が不良であるというだけでは解雇は認められず、
・程度が甚だしいこと
・本人に帰責性があること
・社員に対して、注意・指導、教育訓練、降格等の方策を段階的に尽くしたこと
・上記の方策を尽くしたにもかかわらず改善が見込まれないこと
などの事情が必要と考えられます。

③労働能力の欠如
一定の労働能力を有していることを前提として中途採用したものの、実際の労働能力は著しく欠如していたような場合、その程度によっては解雇できるケースもあり得ると考えられます。
特に、スキル、経験等に着目して賃金等の労働条件を優遇したうえで労働契約を締結した場合には、社員がそのような労働条件の前提となったスキル等を有していないことが明らかになったときには、比較的緩やかに解雇が認められると考えられます。もっとも、会社としては、労働契約書に職務遂行能力に関する記載を盛り込むなどして、労働契約において前提とされた職務遂行能力がどのようなものであったか等を立証できるように事前に準備しておくことは必要です。

④経歴詐称
社員が重大な経歴詐称をしていた場合には解雇しうると考えられます。
その判断にあたっては、裁判例上、以下のような点が考慮されています。
・就業規則に経歴詐称を解雇事由とする旨の規定の有無
・経歴を詐称した態様
・意図的に詐称されたものであるか
・詐称された経歴の重要性の程度
・詐称部分と当該社員が従事している業務内容との関連性
・真実の経歴が使用者の提示していた求人条件に適合しないものであるか
・使用者が労働契約締結前に真実の経歴を知っていれば採用していなかったと考えられるか

⑤既婚社員による社内交際
社内交際のような私生活上の行為を理由とする解雇は容易に認められないと考えられます。
もっとも、この行為により会社の業務、会社の信用に著しい影響を及ぼした場合には解雇が認められることもあります。

(2) 解雇に至る経緯

解雇の理由自体は客観的に合理的なものだとしても、解雇までの経緯において、注意・指導、教育訓練、配置転換など、解雇を回避するための措置を尽くしていることが必要となります。

解雇の有効性が認められるかどうかについては、上記のように、解雇の理由が客観的に合理的であるかどうか、解雇に至る経緯からして解雇に社会通念上の相当性があるかどうかを検討することになりますが、個別の事案における具体的な事情によって結論が異なってきます。
不当解雇を行った場合には使用者が大きな責任を負うおそれがある(→後記「5 不当解雇の効果」をご参照ください)ことからも安易な判断は禁物です。解雇の前に、弁護士にご相談ください。

3 解雇時の手続

上記のような検討に基づき解雇の有効性が認められるケースにおいて、実際に解雇をする場合には、解雇する社員に対し、少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があり、解雇の予告を行わない場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。予告から解雇までの日数が30日に満たない場合は、その不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります(労働基準法20条1項、2項)。
なお、社員が社内で軽微でない刑法犯罪を犯したことなどを理由として解雇を行うケースでは、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告手当を支払う必要がなくなる場合もあります。

4 有期労働契約の社員の解雇

有期労働契約の社員の解雇においては、以下の点にも注意する必要があります。
有期の労働契約の場合、労働契約法17条1項により解雇が制限され、使用者は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することはできないとされています。この「やむを得ない事由」については、期間の定めのない労働契約の場合の労働契約法16条に基づく解雇の有効要件よりも、会社側に厳しく判断されます。有期労働契約については、使用者と労働者が合意して契約期間を定めており、当該期間は契約を全うすべき要請があるためです。
よって、有期労働契約の社員の解雇については、期間の定めのない契約の場合よりも注意をして進めていく必要があります。

5 不当解雇の効果

解雇することが「客観的に合理的な理由」を有しており「社会通念上相当である」と認められなかった場合、その解雇は無効となります。つまり、当該社員との労働契約は解雇通告後もそのまま継続しているということになります。
よって、後々、被解雇者である社員が使用者(会社)に対し、解雇の無効を主張して訴えた場合、会社は、当該社員に対して、解雇されなければ得られたであろう賃金(バックペイ)を遡って支払う義務が生じたり、当該社員の職場復帰を命じられたりするおそれがあります。裁判等の手続には期間を要するため、例えば、解雇から判決確定まで2年を要した場合には、2年分の賃金を直ちに支払わなければならないなどということにもなりかねません。
また、被解雇者である社員と会社とが解雇の有効性を争っているということは、職場の士気を下げる可能性がある事柄ですし、もし、被解雇者である社員が、使用者に一方的に不当に解雇されたなどと他の社員に告げた場合には、他の社員が使用者に対する不信感や嫌悪感を抱くきっかけともなるでしょう。

よって、社員を解雇する際には極めて慎重に行わなければなりません。

<法令による解雇の制限>

解雇権濫用法理(労働契約法16条)のほかにも、多数の法令が解雇の制限を規定しています。実務上、問題になることの多いものを紹介いたします。

①時期を制限するもの
以下の期間に解雇することは原則としてできません。
・労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間(労働基準法19条1項)
・女性が産前6週間、産後8週間の休みをとっている期間及びその後30日間(労働基準法19条1項・65条)
・妊娠中及び出産後1年を経過しない期間(雇用機会均等法9条4項本文)

②差別的な理由に基づく解雇を制限するもの
以下の解雇は認められません。
・国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇(労働基準法3条)
・性別を理由とする解雇(雇用機会均等法6条4号)
・婚姻を理由とする解雇(雇用機会均等法9条2項)
・労働基準法に基づき産前6週間、産後8週間の休業をしたこと等を理由とする解雇(雇用機会均等法9条3項)

③労働者が特定の行為をしたことを理由とする解雇を制限するもの
以下の解雇は認められません。
・労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、またはこれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇(労働組合法7条1号)
・労働基準法、労働安全衛生法違反の事実を労働基準監督署長・労働基準監督官等に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項、労働安全衛生法97条2項)
・セクシャルハラスメント、育児・介護休業等の制度の利用に関する言動の問題について事業主に相談を行ったこと等を理由とする解雇(雇用機会均等法11条2項、育児介護休業法25条2項)
・育児・介護休業の申出をしたこと、育児・介護休業をしたこと等を理由とする解雇(育児介護休業法10条、16条)
・公益通報者保護法に基づく公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)

6 不適切な対応例

問題のある社員数名に対し、とりあえず1ヶ月分の給料を支払うから辞めてくれと言って、一方的に解雇を言い渡した。

当該社員らのうちの一名が不当に解雇されたとして、解雇無効の訴え及び給与の支払いを求めて訴訟提起した。
解雇から1年後、社員の主張を認める判決がなされ、当該社員に1年分の給与相当額を支払うとともに、当該社員を職場復帰させなければならないこととなった。
この訴訟結果を知った他の解雇された社員も次々と同様の訴えを提起し、最終的に使用者は多額の金銭を支払わねばならない結果となった。

このような事態を避けるために、弁護士への事前相談をお勧めします。

7 当事務所による対応例とそのメリット

詳しい事情を伺った上で、当該事案に応じて
①解雇の理由が客観的に合理的であるといえるか
②解雇手続はどのような流れで行えばよいか
③解雇後に紛争とならないためにはどのような点に気をつければよいか
等を法的観点よりアドバイスします。

解雇された社員が、不当解雇であるとして賃金や損害賠償の請求を行ってきた場合には、私たち弁護士が、御社の代理人として交渉にあたることが可能です。

上記アドバイスに基づき対応したにもかかわらず訴訟を提起された場合には、事情をよく把握している私たち弁護士が、御社の訴訟代理人として、御社の対処が適切であったことを主張することが可能です。
なお、事前のアドバイスを受けずに解雇を行い訴訟提起されてしまった場合にも、私たち弁護士が、御社の訴訟代理人として、できる限り御社の行為の正当性を主張し、御社の受ける不利益が少なくなるよう最大限努力します。

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