担保権の設定
タイトル
Q.設立間もない会社と新たに取引を始めることになりました。
売掛金を確実に回収するための方策はあるのでしょうか。
A.反復継続して行われる商取引においては、取引から生じた代金の回収を、後日行うことが多いのが実情です。
債権回収を確実にするために最も有効な方法のひとつとして「担保権」を設定することが一番です。
担保権の種類
担保権には、抵当権・譲渡担保権・連帯保証など当事者間の合意で成立する「約定担保」と、留置権・先取特権など法律上一定の場合に当然に成立する「法定担保」があります。
「法定担保」は特に何らかの方策を講じなくても当然に発生しますので、本稿では「約定担保」の中からどの担保権を選択すればよいのかについて考えていきます。
なお、現実の取引社会においては、取引前に相手方から抵当権等のいわゆる物的担保の提供を受けることは困難であることが多いので、ここでは、物的担保については簡単な説明にとどめ、主として、連帯保証等のいわゆる人的担保について説明することにします。
物的担保について
(1) 当該企業が不動産(土地・建物)を有している場合
一般的に設定される担保権は「抵当権」や「根抵当権」です。
取引の開始前において、取引の相手方が抵当権や根抵当権の設定に応じるケースはなかなかないものの、取引上、相手方よりも強い立場にある場合には、その力関係を利用して、取引開始前に抵当権や根抵当権の設定を受けておいたり、将来、一定の事情が生じた場合には抵当権等を設定する旨の同意を得た上で、併せてその同意に違反した場合の違約金等について定めた書面を作成したりすることが効果的です。
(2) 当該企業が動産(備品・機械類)を有している場合
当該企業の有する動産に譲渡担保権を設定したり、商品売買であれば、商品に対して所有権留保特約を結んでおき、代金が支払われるまで商品の所有権を債権者のもとにおいておいたりする方法が考えられます。
取引先の不動産に、すでに金融機関の抵当権が何重にもついているような場合には、価値のある動産(備品・機械類)に譲渡担保権をつけておくことは債権回収にとって有効な方法といえます。
また、取引先の倉庫にある商品など出庫・入庫によって種類・数量が変動する物についても、その種類・所在場所・量的範囲を指定するなど何らかの方法で目的物を特定できる場合には、倉庫内の商品に対して集合物譲渡担保権をつけておくこともできます。
(3) 当該企業が、第三者に債権を有している場合
当該企業が、第三者に貸付金などの債権を有している場合には、その債権に債権質という形で質権を設定したり、万が一、債務者が代金を支払えなくなった場合には、その債権の債権譲渡を受ける合意をしておいたり、債務者の有する債権を代理受領(債務者に代わって債権者が第三者から弁済を受けること)する権利を取得しておいたりする方法が用いられています。
人的担保について
取引先が抵当権等の物的担保の提供に難色を示した場合、次善の策として、債権回収を可能とするために人的担保を設定してもらうことを検討します。
(1) 取引先に人的担保を求める場合の注意点
具体的には、取引先の代表者に保証人や連帯保証人になってもらうよう求めることが通常です。
もっとも、人的担保は抵当権等の物的担保とは異なり、連帯保証人等の資力によって債務の支払の確実性に違いが生じるので、取引先の代表者に人的担保になることを求める場合には、事前に不動産登記簿謄本等を入手して代表者の財産状況を調査する必要があります。調査の結果、代表者の財産状況に不安がある場合には、代表者の親戚や友人等で資産を充分に有する者を人的担保として求めることも選択肢のひとつとして考慮すべきでしょう。
連帯保証を行う際の具体的な注意点としては、連帯保証人等になる者に会社に出向いてもらい、免許証等で本人確認をすること、連帯保証契約書に自筆で住所・氏名を記載してもらうこと等が挙げられます。その際、併せて、連帯保証人等の保証意思をよりいっそう明確化するために、実印による押印と印鑑登録証明書の提出も求めるとよいでしょう。
(2) 保証と連帯保証の相違点
人的担保のうち、代表的なものとしては、保証と連帯保証が挙げられますが、両者には以下のような相違点があり、保証よりも連帯保証のほうが債権回収にとって有利であるので、人的担保を取引先に要求する場合には、連帯保証を求めることにしましょう。
保証と連帯保証の具体的相違点としては、次のようなものがあります。
① 保証の場合、債権者が代金の支払を求めたときに、保証人は債権者に対し、まずは債務者に請求をするよう求めたり、債務者のもとに財産があるので先にこの財産に対し強制執行するよう求めたりすることができます。他方、連帯保証の場合、連帯保証人は債権者に対し、そのように求めることはできません。
② 保証人が複数いる場合、債権者は各保証人に対し、債務者が負担している債務全額の支払を求めることはできず、その債務全額を保証人の人数で割って得られた金額についてのみ、支払を求めることができるに過ぎません。他方、連帯保証の場合、連帯保証人が何人であろうと、債権者は、各連帯保証人に対し、債務者が負担している債務全額の支払を求めることができます。
この他に、連帯保証の場合のほうが、保証の場合と比べて、債務者の負担している債務が消滅時効によって消滅することがないように事前に防止する時効中断の点についても有利であるといえます。
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