特別受益・・・相続の現場で現実に起こっている熾烈な問題とは!(その2)

父Aは、10年ほど前に、長男である私Bが家を継ぐということで、父Aが借地権を設定して、所有していた建物(当時借地権と合わせて7000万円相当)を贈与してくれました。家を継ぐ以上は、特別受益の持ち戻しは免除されておりました。

私には弟Cがおりますが、父Aは、弟Cは家を継ぐわけではないということで、何も贈与されませんでした。

父Aには愛人Dがいたことが発覚し、すでに母とは離婚しております。

父Aはその愛人Dに8年ほど前にマンション5000万円相当を贈与しています。父Aと愛人Dはその後も籍は入れておりません。

父Aは、3年ほど前から認知症の症状が進行し、私Bが父Aから贈与してもらった上記マンションで同居するようになりました。ところが、1年前に私Aが外出している間に、認知症の進行のために、火の不始末から建物を全焼させてしまいました。

父Aは、3ヶ月前に亡くなったのですが、亡くなった当時はすでに遺産らしいものはほとんどありませんでした。

にもかかわらず、私Bと愛人Dは、弟Cから、遺留分減殺請求を受けました。しかし、私Bは父Aから特別受益持ち戻し免除を受けていますし、すでにこの建物は父Aの火の不始末によりすでに焼失しています。もし父Aが焼失させなければ亡くなった当時の借地権付きの建物の時価は3000万円程度はあったと思います。このような状況でも、私は弟Cから遺留分減殺請求を受けることになるのでしょうか?

また、父Aが亡くなった当時、愛人Dが贈与を受けたマンションの評価額は1600万円程度だったようですが、本件の場合、愛人Dも遺留分減殺請求を受けることになるのでしょうか?

 

今回は、前回に続いて特別受益に関する熾烈な争い第二弾です!

今日は、弁護士も悩むようなかなり難しい話しをします。じっくりと読んでいただけたらと願っております。

 

(相続人と遺留分割合の確定)

まず、相続人と遺留分割合を確定させましょう。

父Aと妻はすでに離婚していますから、妻は相続人ではありません。

また愛人Dは入籍しませんでしたから相続人ではありません。

したがって、父Aの相続人はBと弟Cだけということになり、弟Cの遺留分割合は4分の1ということになります。

 

(弟Cは愛人Dに遺留分減殺請求することができるか)

まず、愛人Dは、父Aから8年前に5000万円相当のマンションの贈与を受けているのですが、弟Cからの遺留分減殺請求を受けることになるのでしょうか?

この点は、民法1030条の問題になります。同条によれば、贈与が被相続人が死亡する1年間以内であれば、当然に遺留分減殺請求の対象になるが、それ以前の贈与であれば、贈与当事者が、遺留分権利者の遺留分を侵害することになると認識していた場合に遺留分減殺請求の対象となるということになります。

本件は、8年前に贈与されていますから当然に遺留分減殺請求の対象とされるというのではなく、8年前に父Aと愛人Dの双方が、弟Cの遺留分を侵害することになると認識していた場合に、遺留分減殺の対象とできることになります。

したがって、弟Cがかかる事実を証明できた場合に、愛人Dに対して、5000万円÷4=1250万円の遺留分減殺請求をすることができることになります。

 

(弟CはBに遺留分減殺請求することができるか)

次に、Bに対して遺留分減殺請求できるかどうかは、さまざまな論点があり、すぐに結論を出すことはできません。

 

まず、Bは、父Aから借地権付き建物の贈与を受けているのですから、これは特別受益に該当します。これは問題ないでしょう。

 

問題は、Bが父Aから特別受益の持ち戻しの免除を受けているという点です。Bは、みなし相続財産を算定するときには、特別受益たる贈与価額は持ち戻さなくてもよいわけですが、そのことが遺留分額の算定にも影響して、遺留分額算定の基礎となる財産額に算入しなくても良いということになるのでしょうか。

 

この点については、特別受益があった場合には、その持ち戻し免除の意思表示があろうがなかろうが、必ず遺留分額算定の基礎財産額に算入しなければならないとされています。

なぜなら、そのように解しないと、遺言者が、生前に多額の贈与をしておいて持ち戻しの免除をすることによって、遺留分の基礎財産をいくらでも減らすことができることになってしまって不合理な結果となるからです。

 

では、次に、Bも愛人Dと同様に、民法1033条により、父Aの死亡時から1年内か否かで、受贈額が遺留分算定の基礎財産に組み入れられるかどうか扱いが変わるのでしょうか?

この点は、Bは相続人ですが、愛人Dは相続人ではないという点が分水嶺となります。つまり、民法1030条は相続人ではない者に適用される条文で、相続人には適用されないのです。

 

なぜ、そんな違いがでてくるのでしょうか?

その理由は、遺留分に関して規定されている民法1044条が、遺留分には、民法903条(期間制限を設けていない)を準用すると明記しているからです。

すなわち、民法903条は、遺産分割の際の相続取り分を決める際の基礎となる財産に、「相続人が」生前に特別受益を受けているときは、期限を設けることなくすべて参入すると規定しています。1044条は、このような903条を準用していることから、遺留分を計算する場合、「相続人」に対する生前贈与は、民法1030条にかかわらず、すべて計算の基礎にされると解されることになるのです。

 

したがって、Bは、弟Cから、遺留分減殺請求を受けることになります。

 

(建物が焼失していても遺留分減殺請求されるのか?)

もっとも、Bは、父Aから借地権付きの建物の贈与を受けているのですが、建物はすでに焼失してしまっています。建物が焼失してしまったので、借地権も同時に消滅してしまっています。

ですから、Bは、父Aが亡くなったときには、建物所有権も借地権も有していなかったわけです。

にも関わらず、Bが弟Cから遺留分減殺請求を受けるというのは酷なのではないでしょうか?

 

この点については、この借地権付き建物が、「Bの行為によって」滅失したときは、相続時に、当該建物が原状のままそのまま残っているものと評価され、遺留分減殺請求をされることになります。

その理由は、ここでも先ほど出てきた遺留分に関する民法1044条が、特別受益に関する904条を準用しており、「受贈者の行為によって」贈与の目的物が滅失した場合には、相続開始時に原状のまま存在したものとみなすとされているからです。

 

そうしますと、今回、この借地権建物を焼失させたのは、父Aであり、受贈者であるBではありません。ですから、原則として、「Bの行為によって滅失した」とはいえず、Bは責任を負わなくて良いことになります。

もっとも、当時、Bは、認知症の父Aと同居していたわけですから、父Aが火の不始末などを起こして、第三者に損害を被らせることのないようにすべき注意義務を負っていたと解する余地があります。

したがって、もし、このような注意義務を負っていたにもかかわらず、その義務を怠ったということでしたら、Bには過失が認められることになります。そうなりますと、借地権付き建物を焼失させたことが「Bの行為」と評価されることになります。この場合には、父Aが死亡したときの評価額2000万円÷4=500万円の遺留分減殺請求を受けることになってしまいます。

 

特別受益や、遺留分に関しては、相続紛争の中で特に熾烈を極めることがある分野です。今回ご紹介したテーマは少々難解だったかもしれませんが、雰囲気を体感していただけたらうれしく思います。

 

第903条第1項

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

第904条

前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

 

第1029条第1項

遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

 

第1030条

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 

第1044条

(中略)903条並びに904条(特別受益者の相続分)・・・(中略)の規定は、遺留分について準用する。

 

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