ベンチャービジネスにおける契約書作成のポイント

ベンチャービジネスにおける契約書作成のポイント

タイトル

ベンチャービジネスにおける契約書作成のポイント(講演資料 転記)

場所:国立大学法人東京農工大学 産官学連携・知的財産センターインキュベーション
講師:弁護士 湊 信明 日時:平成21年8月6日

第1 ベンチャーにおける契約書作成の
必要性

ベンチャービジネスにおいては、未だ、自らの経済的基盤も弱いことが多く、一度の契約上の失敗が事業自体が立ちゆかなくなるような取り返しのつかない事態に至ることもあります。

契約は、口約束でも成立しますが、それだけでは、契約の内容が明確でなく、また、契約成立の証拠が残らないという大きな欠点があります。重要な契約や複雑な内容をもつ契約の場合には、口頭で契約を結ぶだけでなく、契約書を作成しておくことが必要です。

とかくビジネスを始めたばかりで不慣れですと、契約書をつくりたいと切り出すと、相手方を信用していないように思われると考え、「俺とお前の仲だから」といって契約書をかわさないケースがあります。

しかし、契約書がないため、契約の相手方が契約どおり履行しなかったり、訴訟になって裁判手続上、契約(内容)の立証ができなかったら取り返しがつかないのです。

契約書作成は、企業にとって、紛争予防上の点からみても非常に重要なことなのです。

第2 契約書をかわす前に 
契約の成立要件・有効要件・効果帰属要件

どんなに立派な体裁の契約書を作っても、それが有効に機能しなければ何にもなりません。契約書を交わす前に、契約の成立要件、有効要件、効果帰属要件、効力発生要件などの基本知識を押さえておくことがとても大事です。

成立要件

(1)契約は、特定人と特定人の意思が合致することにより成立します。
口頭の契約、いわゆる口約束であっても、契約書に署名・押印した契約であっても法律上の効力は同じです。例えば、八百屋さんに「このネギ下さい。」と言い、八百屋さんが「はいよー!」と言えば、これで売買契約が立派に成立したことになります。

(2)しかし、現実には、この単純な部分で失敗するケースが多々あります。たとえば、「株式会社あいうえお」の「代表取締役契約次郎」という名刺を持った人と契約したとします。

本人は、特定人との契約を締結したつもりでも、実際には、その会社が存在しないことがあり、その場合には、契約は成立しません。ですから、契約主体のチェックは何より重要なことで、きちんと、商業登記簿謄本、印鑑証明書で確認する事が大事なのです。

このように契約当事者の実在性を確認することが契約締結の第一歩となりますから、必ず、契約する相手は、個人・法人・その他団体かどうか、実在するかどうか確認することが重要です。

そして、実在性に疑問がある場合は、契約交渉をただちに取り止めることが肝要です。

(3)それと、よく失敗するのが、会社と契約しているのに、代表取締役の名前だけ書いて、あたかも個人と契約を締結した体裁にしてしまうことです。

このような場合、後になってから、会社に代金請求しても、会社は契約を締結していないから支払わないといわれてしまうことにもなりかねません。自分が契約しているのが個人なのか法人なのかきちんと理解して記載することが重要です。

個人であれば、氏名を記載すればそれで良いのですが、会社を相手にするときは、必ず「●●株式会社 代表取締役××」と記載させることが重要です。

有効要件

1 客観的有効要件
(契約内容に関する有効要件)

Ⅰ 適法性
私的自治の原則のもと、契約当事者はその内容を自由に決定できるのが原則です。しかし、その合意内容が違法である場合にまでこれを有効とすることはできません。 民法・商法・その他多くの法律には、契約に関してさまざまな規定がおかれています。これらの規定は、任意規定・強行規定・取締規定の3つに分けられます。

① 任意規定
任意規定とは、当事者がこれと異なる内容の合意をすれば、その合意の方を優先する規定のことです。民法の契約に関する規定の多くは、この任意規定です。

② 強行規定
強行規定(強行法規ともいいます)は、絶対に守らなければならない規定です。つまり、当事者の意思いかんにかかわらず適用され、当事者がこれに反する合意をしても、その合意は無効となる規定です。

例えば、借地借家法・労働基準法・割賦販売法・訪問販売などに関する法律の多くの規定は、強行規定でこれに違反する契約内容は無効となります。

③ 取締規定
取締規定とは、規定に違反しても合意の効力には影響はないが処罰されるもので、例えば、無届けで貸金業を行えば、貸金業の規制などに関する法律違反で処罰されます。

このうち、強行規定・取締規定は、暴利行為その他反社会的な行為を禁止したり、取引上の弱者を保護する目的で規定されているものです。強行規定・取締規定に違反しない限り、契約内容は当事者が自由に決めることができることになります。

Ⅱ 確定性
契約内容が明確に確定されず、契約目的物が特定出来ない場合には、確定性を満たさず契約は無効となります。ですから、契約を締結する際には、契約目的物が何なのか、しっかりと特定するこが重要です。

2 主観的有効要件
(契約当事者に関する有効要件)

Ⅰ 意思能力
契約の相手方が、3歳くらいの幼児であったり、高度の痴呆老人で、契約内容も理解できないような者であれば、意思能力の欠如を理由に契約は無効とされます。

Ⅱ 行為能力
また、未成年者や成年被後見人であった場合には、行為能力がないことを理由に契約が取り消される可能性もありますから、契約の相手方の能力には十分なチェックが必要です。

Ⅲ 意思の欠如、意思表示の瑕疵
契約締結当時、意思が欠如していたり、意思表示に瑕疵があった場合には、契約が無効となったり、取り消されたりすることになりますから、契約締結当時の相手方の意思がいかなるものかについては十分な注意が必要です。

心理留保・・・無効
虚偽表示・・・無効
錯誤・・・・・無効
詐欺・・・・・取消
強迫・・・・・取消

3 効果帰属要件

(1)契約権限のチェック
代理人や法人の代表者が契約の当事者となるときに、有効な代理権や代表権が存在しなければ、契約当事者の法律行為と認められないので、当事者に効果が帰属しないことになります。

そのため、代理人が契約当事者に代わって署名捺印するときは、委任状(できれば印鑑証明添付)を契約書に添付すなどして、代理権等の存在を明らかにするようにすることが必要です。

(2)表見代理責任
仮に相手方が代理権を有していなかった場合でも、代理権を有しているだろうと正当に信頼した者を保護するため、表見代理制度も規定されているが、

4 効力発生要件

(1)期限
(2)期間
(3)条件

第3 契約書の形式

1 「契約書」「覚書」「念書」等の名称

契約書を作成するのに法律上の決まりや制限は一切ありませんので、当事者が自由に作成することができます。どのような形であれ、その文章の内容から契約の存在が推測できればすべて契約書といえます。

例えば、「覚書」、「念書」、「協定書」なども、その内容が契約書として意味をもつもでのあれば、契約書の一種といえます。法律上の決まりはありませんが、契約事項の内容が適切で簡潔にまとめられたものが望ましいに違いはありません。一般的には次の構成で契約書を作成すると良いでしょう。

(1)表題
「賃貸借契約書」など、一目で契約内容がわかる表題をつけるのが良い。

(2)前文
契約当事者が誰であるか明確にする。

(3)本文
契約内容を記載する。

(4)末文
作成した契約書の通数、所持者などを記載する。

(5)契約書作成年月日
契約締結日を記載する。

(6)契約当事者の住所・氏名・押印
署名または記名と押印はトラブルを防ぐ為にも当事者の面前で行うと良い。

(7)違約に備える特約
「解除特約」、「損害賠償額の特約」、「裁判所の合意管轄規定」などを必要に応じて定めると良い。

2 契約書の押印

契約書には、署名捺印のほかに、契印・訂正印・捨印・消印といった押印があります。

(1)契印・綴印
契約書の用紙が2枚以上にわたる場合、その綴じ目に2枚の用紙にまたがって押印するもの。2枚の契約書が一体のものであること、契約書の綴じ順序を明確にするために押印します。

なお、袋綴じの場合は、裏側の綴じ目に当事者双方が1つずつ押印すれば良いです。

(2)訂正印
契約書の文字の誤りや脱落があった場合、それを訂正するために押印するもの。訂正する権限のあるものが訂正したことを明確にするためのものです。通常の訂正方法としては、訂正個所に元の文字が読めるように2本の線を引き、縦書きならその右横に、横書きならその上に正しい字を書きます。訂正印は加除訂正箇所に当事者双方の印を押すが、元の文字が見えにくくなる場合は、欄外に「○字加入」「○字削除」などと記入しそこに押しても良いです。(商業登記規則第48条3項)

(3)捨印
後日、契約の字句を訂正する時のためにあらかじめ欄外に押印しておくものです。後になって訂正箇所がみつかってもわざわざ相手側の捺印をもらいにいく手間を省くものですが、知らないうちに無断で文書内容を訂正されてしまう場合があるので、確かな信頼関係がある場合に限ったほうが良いでしょう。

(4)消印
入印紙の再使用を防ぐために、印紙と台紙とにまたがって押印するもの。このような目的で押印されるものなので、必ずしも契約書に使用した印でなくても良く、署名者全員で押印する必要もありません。

第4 契約書の管理

契約書を作成後、調印が済んだら契約書のコピーを関係部署に配布して、契約内容に従った履行の準備をします。契約書の原本は、契約書の成立ならびにその内容を立証する大切な文書ですから、きちんとした保管場所を決め、管理上の責任者も明確にしておく必要があります。

第5 契約したが履行期に履行が得られない
場合の対処

1 裁判における念書の重要性

契約は締結したが、取引先が売掛金の弁済をしないなど、履行期に履行が得られない場合もよくあることである。また契約締結時には予想もしなかった展開となる場合もあり得る。このような場合には、ただ手をこまねいていては犬死にである。

必ず、相手方から、その状況に即した文書を新に取得することが重要である。後日、裁判になったときの立証のことを考えると、問題が起こったら、あるいは起こりそうだったら、常に念書を取るくらいのスタンスでいた方がベター。

・裁判における立証責任は、権利を主張する側にある→権利主張には貪欲第一!
・裁判における立証方法→文書が特に重要
・弁護士登場前に当事者間でとってしまうことが重要。

2 念書、契約書の基本型

・念書・確認書は、署名(記名)捺印するのは債務者だけでOK。
・契約書は債権者債務者双方が署名(記名)捺印する。契約書にするときは、予め自分の署名(記名)捺印をしておいた方が良い。

3 念書、契約書では、事件の特定が重要

・企業間では、様々な債権債務があり、その内どの権利関係について念書を作成したのかが特定されていなければ、裁判で意味をなさない。
・事件の特定は、5W1Hを明記することが重要。
・売掛金であれば誰と誰との間でいつ成立した支払時期がいつの債権か。
・不法行為債権であれば、いつ、どこで、誰が誰に対して、どのような態様にて行った不法行為かなど。
・せっかく念書をとっても、主体が個人なのか法人なのかが混同されているものが結構多い。

・主体が、個人の場合は、印鑑登録証明の提出を求めて住所・印鑑の確認をする。印鑑登録証明書の提示を求められないときは、免許証、保険証、パスポートで本人確認と、住所、本籍を確認する。できればコピーをとらせてもらう。→後日、債務者が住所を変更したときや、相続が発生した場合に、弁護士であれば住民票・戸籍謄本を取り寄せることができ、回収不能を回避することができる。

・主体が、法人の場合は、法人の商業登記簿謄本の提出を求める。商業登記簿謄本は法務局にて誰でも交付を求めることができるので(1通1000円程度)、できるだけ事前に取っておくこと。後述のよう代表取締役個人に連帯保証させることが望ましいが、商業登記簿謄本には代表取締役の住所地が記載されているので、代表者住所地も確認することができる。

・法人名の署名(記名)捺印をさせる場合には、代表者名(場合によっては代理人名)まで記載する。

(記名捺印例)
住 所 東京都○○市○○町○○丁目○番○号
法人名 ○○商事株式会社
代表取締役  ○○○ ○○  印

4 確認条項について

・確認条項の文末は、「認める。」か「確認する。」。
・事件の特定が簡単なときは、確認条項中で特定してしまう。
・後になって、そんな債務は知らないと言われるよりかは、その場で交渉して、減額してでも念書、契約書をとっておいた方が良いことがある。相手に認めさせる金額を思い切って減額してしまうことも一法である。
・利息制限法には注意して。10万円未満2割、10万円以上100万円未満1割8分、100万円以上1割5分だが、商事法定利率6パーセント、民事法定利率5パーセントの倍までと心得て。

5 支払条項について

・分割払いにしてあげる代わりに念書を作成するように求める。
・分割払いの規定の仕方。
・確認条項に確認させた金額のうちいくらを、何回に分割して、一回いくらを、いつ、どこに支払うのかをしっかり規定すること。
・給付条項では、全額債務額を認めさせ、その内一定額を分割で完済したときは、残額を免除すると規定してあげると、念書を取りやすいし、債務者も熱心に支払ってくれることが多い。
・支払ったことの立証責任は、支払った側にあるので、逆に念書を書く側になったときは、銀行振込口座を念書上特定しておいてもらった方が良い。持参払いの場合には、必ず、領収書の交付を求める。

6 期限の利益喪失約款・過怠約款について

・期限の利益とは。
・期限の利益喪失約款を定めておかないと大変なことになる。
・期限の利益喪失約款の規定の仕方
・何回支払を怠ったときに期限の利益を喪失するのかを明記する。
→1回とするよりは2回か3回にしてあげた方が、念書は取りやすい。

回数にする方法もあるが、2回分以上というように金額により喪失させる方法もある。
・期限の利益喪失後は、必ず遅延損害金を取る。それが債務者に対するプレッシャーとなり、債権回収につながる。

7 清算条項

・清算条項とは。
・当事者間に他にも何らかの債権債務があるが、この際、他のものは回収できなくても問題となっているこの債権さえ回収できれば良い場合には、「他の債権はもう良いから、これだけは支払って下さいよ。契約書でも他の債権は問題としない旨の(清算)条項を入れてその点を確認してあげますから。」と言ってあげると、債務者は契約書作成に応じやすくなる。

8 念書、契約書の日付

・念書、契約書の日付は権利関係が存在していた時点を確認するものとして非常に重要→消滅時効との関係など。

9 署名捺印

・署名と記名の違い。
・原則として住所、氏名または会社名は自署させる。
・相手が署名するかどうかわからないときは、住所までは予め印字しておき、氏名のみ自署させる。
・書面が2枚以上になるときは、割印を忘れないこと。
・印鑑登録証明書(3カ月以内のもの)の威力。

10 支払強制力強化

・連帯保証人をとる。
・法人が債務者の場合には、代表取締役を連帯保証人とさせることは当然。
・代表者の親族に財産を不当に移転させている場合もあり、その場合にはその身内からも連帯保証人にさせることが望ましい。但しあまりそれにこだわると念書作成自体を拒絶されることになるので、ほどほどに。
・保証に関する定めは確認条項の末尾に目立たないように入れておく。
・執行認諾約款付公正証書作成を約束させる。
・執行認諾約款付公正証書は、確定判決と同じ効力があり、裁判に勝ったのと同じ。
・その効力が認められるのは、金銭債権についてのみであることに注意。
・不動産の引渡債務等、金銭債務以外の債務には認められないが、公正証書には強力な証拠力があり、後日行われる裁判では非常に有利に展開する
・公正証書作成は代理人により作成することもできるが、できれば、全債務者を同行させ、交付送達までさせてしまうことが重要。
・作成日当日に債務者をいきなり連れて行って作成を依頼することは控える。

・公証人も忙しく嫌がられるということもあるが、事前に公証人に公正証書案を持って行けば、条項の誤りは正してもらえるし、礼儀正しく熱心に足を運べば、公証人も人の子・・・

・公証役場の場所・・日本公証人連合会のHP http://www.koshonin.gr.jp/
・遅延損害金の定め。
・場合によっては、譲渡担保、質権設定をしておく。
・不動産に対する抵当権設定を念書上で約束させる。

11 その他

・使用者責任(民法715条)を知っておく。
現場担当者が不法行為をした場合は、責任者に連絡させる前に、とにかく起こした事件について確認書を書かせる。担当者レベルでは、念書を書くことをためらう場合が多いが、起こした事件の内容についてだけであれば、事件直後なら書いてくれることがある。これさえとってしまえば、その現場担当者の使用者である会社の過失が、民法715条により強力に推定される結果、実際上は、会社に対して損害賠償請求できることになる。
・時効完成寸前の場合、あるいは、すでに時効が完成している場合は、名刺の裏でも何でも良いから、とにかく債務承認の一筆をとる。
・従業員を即時解雇する場合は、問題発生直後に、従業員が弁護士に相談に行く前の段階で辞職届、退職金放棄書をとる。万一、解雇せざるを得ないときは、確認書で予告手当を放棄させる。

・念書、確認書をいきなり取ろうとすると、拒否されて法律事務所に駆け込まれることもある。交渉経過を録音しておくこと。電話での会話は録音しやすいので、必ず録音機材を購入しておく(1万円もあればセットできる)。会話内容はパソコンに保存しておき、後日、念書をとるときに交渉材料として使用する。

第6 信用調査

1 信用度のチェック

あなたの会社に、ある会社がはじめて取引を申し込んできたとき、取引をはじめるにあたってどのような手順をとったら良いでしょうか
特に契約を交わすでもなく、名刺一枚を信用して口約束だけで取引を開始してしまうことが、現実にはよくありますが、最初の取引額が小さかったとしてもこれは実はとても危険なことです。

取り込み詐欺・偽装倒産といった悪質な手口では、まず小口の取引を行い、信用を得てから大口の取引を申し込み、倒産、というパターンも見られます。

ひどい場合には名刺に書いてある企業名は存在しない架空の会社という事さえあります。
ですから、取引に入る際には、出来る限りの信用調査をすることが重要です。

2 自分でできる信用調査

トラブルを避けるためには調査機関を使って企業の信用調査を行うのがもっとも確実ですが、コストの面からそうそう頻繁に利用するのは難しいのが現実です。

そこで、ここでは調査機関を使わずに自社でできる最低限の信用調査の方法をご説明します。

(1)売掛取引依頼票

なによりもまず取引相手の情報収集が必要です。できれば取引開始時点という、最も相手方に対する力関係が優位な段階において相手方の情報をできるだけ収集しておくのがスムーズです。そこで、取引条件として、売掛取引依頼票に記入してもらい、代表者印をもらっておきましょう。

『売掛取引依頼票』をとっておく理由
(1) 登記簿上の会社所在地を知っておけば代表者の住所などもすぐ調べられる
(2) 取引相手が取引依頼票で自己申告した情報と後の調査で調べた事実とが違っていた場合、この相手と将来紛争になった時の有力な証拠になる
(3) 銀行口座を知っておくことによって、急な仮差し押さえや、判決後の本差し押さえの際の有力な資料となる
(4) こういった書類に対してどのような反応を示すのかも一つの指標として考えられる

(2)登記の確認

Ⅰ 登記簿の確認の必要性
登記簿は取引先の経営状態を把握するためにも活用できます。取引先に掛売りを行った場合、代金回収を行う前にその企業が倒産してしまえば売掛金は焦げ付き、あわや連鎖倒産…といった危険性もはらんでいます。不良債権を発生させないためにも、また債権回収の策を他社に先駆けて行うためにも取引先の不動産状況を確認することは大切です。なぜなら、登記簿を読むことによって担保設定の状況がわかり、取引先企業の経営危機を推し量ることが可能になります。

ですから、登記簿をどう活用して取引先の財務状況を判断するかということを知ることは取引先や債権の管理を行う立場の経営者にとっては非常に重要なことなのです

Ⅱ 会社の商業登記簿謄本
その会社が本当に存在しているのかどうかわかる。
代表者・役員の氏名・住所がわかる。
また会社の履歴もチェック可能

Ⅲ 代表者の自宅の不動産登記簿
代表者の自宅は担保に入っていることが多いので、借入状況がわかる。
ここで、銀行からの貸付なのか、それとも信販会社なのか、個人なのかも確認しておく。

3 不動産登記簿のチェックポイント

(1) 担保権の設定が第何位までされているか。はじめに設定された担保権が抹消されるより先に融資ばかりが増えてはいないか

(2) 資産を担保にどのような取引を行っているのか。
誰がどのような債権のために担保を設定しているのか
担保権の枠がじわじわと拡大してはないか
資金は何に使用されているのか

(3) 設定時期はいつか。
次々に担保設定されていないか
時期を同じくして設定されていないか

(4) どのような不動産に対しての設定なのか。
本社や工場などの主要な不動産の処分がなされているか

(5) 担保設定した金融機関はどこか。
不審な金融機関はないか
正規(メインバンク)の金融機関かどうか

ここまで調べれば会社の素性から借り入れのおおよその額まで推測でき、また万が一相手が倒産したというときの債権の保全も迅速に行うことが可能になります。

もちろん、これだけで充分だとはいえませんが少なくとも名前だけの架空会社と取引してしまったり、莫大な債務を抱えた会社と大口の契約を易々と結んでしまうようなことは避けられます。

(3)決算書をチェックする

問題の企業が非上場企業の場合は上場企業に比べて決算書を入手するのは容易ではありませんが、もし3年以上の期間についての決算書が手に入れば、収益構造悪化・資金繰り悪化・粉飾決算の各兆候がないかどうかについて注意深く確認してください。

Ⅰ 収益構造の悪化の兆候
販売力を超過した生産や無理な販売のための過剰な値引きや管理不在、販売促進のための膨大な費用負担、もしくは販路拡大のための売上回収サイトや貸し倒れ管理の不在といったような行動をとっている企業は警戒すべきでしょう。

チェックポイント
(1) 売上高が停滞したり、減少傾向になっていないか
(2) 経常利益が急に減少していないか
(3) 販売コスト(中でも宣伝広告費)の急増や金利の負担額が発生していないか
(4) 売上高の伸びを超越して未回収の債権が増加していないか

Ⅱ 資金繰りの悪化の兆候
リスク管理や資金の安定確保よりも資金調達のみを考えだす企業は、往々にして、借入金融機関の数が増加して、借入金が下位金融機関にまで及んでいたり、受取手形のほとんどの割引や自振手形の街金融での割引を行っていたり、主要取引先に支払条件の延期や手形のジャンプの依頼、手元流動資産(現預金や有価証券)の取り崩しを行ったりといったような行動に踏み切ります。

チェックポイント
(1) 借入金や金利負担が急に増加していないか
(2) 手持ち受取手形の急減や割引手形の急増が起こっていないか
(3) 手元流動資金が急に減少していないか
(4) 支払延期によって仕入債務が増えていないか

Ⅲ 粉飾決算の兆候
正常な経理処理を行っている会社であれば正常な分析も可能なのですが、財務データが順調であるにもかかわらず倒産に至る場合には、大半の場合売上の水増しや経費の過少計上、会計操作といったような手口で粉飾が行われています。

チェックポイント
(1) 売上の水増しのポイント
架空の売上や在庫、売掛金の計上を行っている

(2) 経費の過少計上のポイント
期末棚卸し資産の水増しや不良債権の貸し倒れ処理、減価償却の過少計上を行っている

(3) 会計操作のポイント
支払手形と受取手形の相殺や借入金と貸付金の相殺などが非常に目立つ

(4) 日常の観察と決算計上の数字に矛盾点が感じられる
売上がのびているのに社員の士気が減退している

4 取引先の経営悪化が確認できたら行うこと

取引先企業の信用に不安を感じたり調査機関を利用して経営の悪化が確認されたら、即座に対策を打たねばなりません。

チェックポイント
(1)取引方法の変更はできないか。
与信限度額を可能な限り減らし、現金取引を増やしたり、それが不可能な場合には手形に変更してもらうようにして、売掛を減らしていきましょう。

(2)契約書などで債務・債権の所在を証明できるのか。
債権を否定されないように、万一に備えて取引状況を確認できる書類(契約書・発注書・受領書・借用書)を保存しておきましょう。

(3)債権取り立ての手段を確保しているか。
担保取得の確保を検討したり、取引先社長の個人保証をとりつけておく必要があるでしょう。他にも代物弁済や差押え、仮処分などの回収方法を検討して、同時に積極的な督促を行いましょう。場合によっては、先方の承諾をとってから商品の引き揚げなども検討しましょう。

(4)法的措置をとることは可能か。
最も危険度の高い相手には法的な措置をとることも検討しましょう。いざというときのために弁護士と協議しておくのも一つの手でしょう。
 

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