第2 医療従事者・スタッフのための法律知識

第2 医療従事者・スタッフのための法律知識

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第2 医療従事者・スタッフのための法律知識

1.患者からの暴力・セクハラ

患者から暴力やセクハラを受けた場合、どのような対応をとるべきか。

1 患者からの暴力に対する対応について

(1)暴力を振るう患者の抑制
患者の抑制は、十分かつ適切な訓練を受けたスタッフが行うこととし、可能であれば、適切な訓練を受けた警備員をあてるようにする。その際には、できるかぎり1対1では対応しないようにし、他の職員に応援体制を整えるように依頼します。

(2)院内暴力が発生した場合の対応
ア 職員に対する治療
暴力の被害を受けた職員のカルテを必ず作成し、当該カルテには、患者から暴力を受けた場所、時刻、加害者、状況、傷害の程度・状態などを具体的に記載しておくようにする。

イ 報告書の作成・提出
暴力の発生について、直ちに、上司に対し、被害状況等に関する事項を口頭及び書面でもって報告する。

ウ 加害行為者に対する警告、診療拒否・退院の通告
医師法19条1項は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。」と規定していますが、患者が暴力を振るう場合には診療拒否の正当な理由があります。入院案内に、「暴力等により治療に協力的でない患者には退院を求めることがある」旨記載しておくことも有用です。

エ 暴行・傷害事件としての告訴
暴力行為が継続したり、暴力行為の程度が甚だしい場合には、警察に対して暴行罪、傷害罪、威力業務妨害罪として告訴、告発することができます。また、警察に緊急の対応ができるように要請することが必要な場合もあるでしょう。また、民事上、治療費等の損害賠償請求も可能です。

(3)被害を受けた職員に対するケア
職場における暴力の被害者は、短期及び長期の心理的トラウマや、職場復帰への恐怖に襲われることが多いと考えられる。そのため、必要に応じて、被害後の職員に対するカウンセリングを実施したり、被害にあった職員の業務への配慮を行ったりすることが求められます。

2 患者からのセクハラに対する対応について

(1)セクハラとは
セクハラとは、「性的嫌がらせ」と訳され、時・場所・相手をわきまえずに、相手方を不愉快にさせる性的な言動のことをいい、女性を性的なモノとみなす女性差別的な意識に基づくものであり両性の平等(憲法14条、24条)に明らかに反する行為です。

(2)院内おけるセクハラと考えられる具体例
患者からのセクハラとして考えられる具体例として、例えば、ⅰ.女性職員が男性患者からつきまとわれたり、待ち伏せされる、執拗に交際を要求される、ⅱ.性的な発言や質問をしたり、うわさを流したりする、ⅲ.女性職員の身体の一部をさわる等が挙げられます(いわゆる「環境型セクシュアルハラスメント」)。

(3)セクハラに当たるかどうかの判断基準
労働省(現在の厚生労働省)女性局長通達によると、セクハラに当たるかどうかの判断、すなわち「女性労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断に当たっては、「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされています。「平均的な」という部分があるため、基準としては、若干不明確ですが、要は、自分の周りにいる妻、恋人、親友または子どもが、当該行為をされたら不快に思うかどうかで判断することができるでしょう。

(4)実際に発生したセクハラに対する対応について
ア セクハラ専門の相談窓口の設置
実際に患者の女性職員に対するセクハラが生じた場合、セクハラ被害を受けた当該職員がセクハラ被害を相談できる窓口がなければ、セクハラ被害を受けた職員は、一人で問題を抱え込んでしまって、当該職員の能力の発揮に重大な悪影響が生じてしまう危険も否定できません。そこで、院内にセクハラ被害を相談できる窓口を設置することが望ましいと言えます。

そして、相談担当者には、セクハラ被害に遭った職員が相談しやすいように、十分な認識・理解を有した女性を充てると良いでしょう。また、相談者のプライバシー情報の管理は厳格に行うこととし、相談をしたことによって、相談者に不利益が生じることがないよう十分に配慮する必要もあります。

イ 事実関係の確認
患者の女性職員に対するセクハラが生じた場合において、セクハラ相談窓口の担当者は、当該女性職員から被害の実情を聴取して、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。

ウ 情報の共有と防止策
セクハラ行為を行っているとの事実が確認された患者については、当該患者の看護に携わる職員の間において、セクハラ行為を行うおそれのある患者であるとの情報を共有し、女性職員に対する注意を促します。

また、患者によるセクハラ行為が行われやすい状況としては、患者と女性職員とが1対1になるような状況が考えられますので、その患者のいる部屋に女性職員が一人で来室しないようにするなど、患者によるセクハラ行為が行われることを未然に防止するように努めることが考えられます。

(5)セクハラ行為を行った患者に対する措置
ア 行為者に対する警告、診療拒否・退院の通告

イ 刑事
ストーカー規制法に基づき、ストーカー行為、つきまとい行為に関して警察に警告等の申出、援助を受ける旨の申出を行うことが可能です。どのような行為が対象になるかについては、資料をご参照ください。

ウ 民事
患者の職員に対するセクハラ行為によって、当該職員に財産的・精神的損害が生じた場合(例えば、セクハラ行為がきっかけで、トラウマを負ってしまったことによる通院費用や休業損害、慰謝料など)には、セクハラ行為を行った患者に対し、損害賠償請求を行うことも考えられます(民法709条、710条)。

もっとも、当該患者に対する損害賠償請求が裁判上認められるためには、その患者がセクハラ行為を行ったということなどを証拠によって証明しなければならないので、患者からのセクハラ被害に遭った際には、セクハラ被害について全て看護記録に時刻、言動等詳しく記載したり、場合によっては、録音・録画したりして、事前に証拠を収集しておくように努めます。

2.転倒事故

院内(ex.廊下、検査室内)や院外(ex.外出訓練、家屋調査)におけて、患者の転倒・転落事故が発生した場合の責任はどうなるか。また、転倒・転落事故防止のために必要な方策としてはどんなものが挙げられるか。

1 刑事上の責任

医療従事者の過失(不注意)によって患者が転倒し、傷害を負った場合または死亡したような場合には、医療従事者は業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります。もっとも、患者の転倒事故のように、事故の発生に患者自身の行為が介在している場合には、患者自身の行為が介在しない医療過誤とは異なり、刑事上の責任が問われる可能性はそれほど高くありません。

ただし、自ら行動することができない新生児や、意識不明の患者など、患者自身の行為が介在するとは言えない場合には、転落させたり転倒させたりすれば刑事上の責任を問われるおそれが高いと言えるでしょう。

2 民事上の責任

例えば、看護師等の職員が患者を介助しているときに不注意で転倒させてしまったなどの転倒事故が発生した場合、当該患者を介助していた看護師等の職員や使用者である病院は、看護師等の職員の過失(不注意)により転倒事故が起こって、それに起因して生じた損害(財産的・精神的損害)を賠償する責任を負うことになります。

転倒事故を巡って裁判となるのは、民事上の責任を追及するケースがほとんどです。そして、その際に争点となるのは、転倒・転落事故を予見することができたか、当該事故を回避することができたかといった点であることから、転倒・転落事故で予見が可能なものについては、その結果を回避するための対策を事前に講じておく必要があります。

3 裁判例

(1)東京地判平成10・2・24
高齢の入院患者がローレーターを使用しての歩行訓練中に転倒骨折し、歩行機能を喪失した事例。病院の過失を否定。

(2)東京地判平成14・6・28
患者がリハビリしている際に付添い看護師が離れ、その間にイスから転倒し、頭部打撲により死亡した事例。患者の見当識障害から転倒を予見できたとして、転倒防止義務違反を認めています。転倒防止義務の具体例(重量のあるテーブルを設置して前方への転倒を防止する、椅子の後ろに壁を近接させるなどとして後方への転倒を防止する、付添いを中断するときは椅子から立ち上がれないよう身体を固定する、常時付き添う等)挙げています。

(3)東京高判平成15・9・29
多発性脳梗塞の高齢患者がトイレを済ませた後、病室内で転倒死亡した事例。患者が「ひとりで大丈夫」と言っていたものの、判決は、トイレ時の付添い義務を看護師が怠ったとして過失を認めています。ただし8割の過失相殺。

4 転倒・転落事故発生の主な原因について

(1)設備面における原因
ベッドサイドで起こる転倒・転落事故の原因として、ベッド柵の不備が挙げられます。次に、足腰が弱っている患者につき、ポータブルトイレがベッドの近くに配置されていないことも転倒事故の原因となり得ます。

この他に、トイレや浴室で起こる転倒事故の原因として、足下が濡れて滑りやすくなっていたことが原因として挙げられます。
また、階段や段差が原因となって起こる転倒事故も多数に上ります。

(2)患者側における原因
まず、患者自身の筋力が低下しているにもかかわらず、患者本人の離床したいという自立心から、無理をして離床しようした際に転倒事故が生じる場合があります。

次に、四肢の麻痺・骨折などにより患者の四肢の動きが抑制されていることで、他の患者と比べて、歩行が不安定なものになるため、転倒事故が生じやすくなります。また、患者がスリッパを確実に履かずに歩行したりすることで、患者に転倒事故が生じやすくなります。

(3)医療従事者における原因
医療従事者の不注意により発生する転倒事故の原因としては、2つほど挙げられます。

第1として、患者に対する介助が不十分であることが挙げられます。例えば、検査台等から降りる際に、患者に対して注意を促さなかったり、患者に介助が必要が尋ねたりしなかっために転倒事故が発生してしまうことがよくあります。

第2として、患者に付き添っている際に、少しの間、患者から目を離してしまったことが挙げられます。医療従事者が、大丈夫だろうと軽信して目を離した間に、転倒事故が発生したという事例はかなり多く寄せられています。

5 転倒・転落事故防止のための方策

(1)設備面での事故防止策
ア ベッドサイドにおける転倒・転落事故を未然に防止するため、 ベッド柵のネジを定期的に確認したり、患者がベッドのどちら側から降りるか確認して、降りやすいようにベッド柵の位置を設定したり、ベッドの高さを患者に合わせて調整したりします。

イ 転倒事故につながる要因の除去
段差を除去したり、スロープを設置したりする他に、廊下が水で濡れているようなことがないように清掃を徹底したり、廊下に物を置かないようにして手すりが必ず使えるように配慮したりします。その他に、患者の使用する履き物も、スリッパではなく、転倒防止用の靴を使用するようにすることも転倒事故の防止につながるでしょう。

(2)職員の患者等に対する対応
ア 患者やその家族への事前の注意喚起
病院側で、転倒・転落事故を未然に防止するための体制づくりをしたとしても、完全に転倒・転落事故を予防することが難しい場合には、転倒・転落事故がそれでも起こりうることを患者やその家族に伝えるとともに、転倒・転落事故が起こらないようにするために、患者やその家族に注意してもらう事項や転倒・転落事故が起こりやすい状況等をまとめた書面を事前に交付するなどして、注意を喚起しておく必要があります。

イ 患者の介助の際にできる限り目を離すことがないようにすること
例えば、排泄介助を行う場合、昼夜ともトイレまで誘導することを励行したり、患者の病状を見てポータブルトイレを使用してもらうようにしたりすることが考えられます。

また、患者から目を離さざるをえない場合には、他の職員や介助者に連絡するなどして、不測の事態が起こらないように対処するようにします。

ウ 転倒事故が起こりやすい場所での職員による介助
例えば、検査室等の検査台から降りるときのように、段差のあるところに降りる際には、患者がバランスを崩して転倒することが多いです。

そこで、このように段差のあるところに降りる場面に立ち会う職員は、患者が段差のあるところから降りる際に、注意を促したりするだけでなく、患者を介助するようにして、未然に転倒事故を防止するように努めるましょう。

6 身体不自由な患者が一人で来院、院内転倒し骨折した場合の責任と必要な体制

病院が診察等により患者の状態を把握する以前に、転倒した場合には病院が責任を負うことはないと考えられます。これに対して、病院が患者の状態を把握し、介助なしでは転倒の危険性があると判断した場合には、院内では必要な介助を行い、また帰院の際には家族に連絡して介助してもらう等の対処が必要となります。病院が必要な介助を怠った場合には、上記裁判例のように過失相殺は認められるものの病院に一定程度の責任が認められるものと考えられます。

3.検査・手術における説明同意

検査や手術の説明が不十分なまま検査が行われることがある(診療記録にも記載はなく、同意書もギリギリで取られていないことがある。)。医師が自分が責任を取るというが、検査出しをした看護師や実施した検査技師は責任を問われないか。

1 看護師や検査技師等の責任について

従来は、看護師や検査技師等の医療従事者は、医師の手足であると捉えられていましたが、近時ではそうではなく、医師と協働して医療に従事する専門家と捉えられることが多くなってきました。

近時の裁判例においても、「看護師は、保助看法37条のもとで医師の指示により相対的医療行為を行うことができるが、自らの知識・経験に照らし合わせて医師の指示内容に疑問を有する場合には、再度医師に指示内容を確認すべき義務がある」と判示し(京都地裁平成17年7月12日判決参照)、医師とは別個に看護師の過失が認定される可能性が示唆されております。

そうだとすると、例えば説明が不十分なまま検査等が行われて、その後、当該患者に医療事故が生じた場合、説明が不十分であることを知りながら漫然と検査等を実施した看護師や検査技師等にも説明義務違反が認められるとして、責任を問われる可能性も否定できないと考えられます。

2 患者に対し説明を行う意義について

(1)身体への侵襲に対する患者の同意
手術や検査等の医療行為は、患者の身体への侵襲を伴うものであるところ、患者の同意がなければ、原則として、身体への侵襲を正当化することはできません。
それゆえ、患者の同意なく、手術や検査等の医療行為が行われて医療事故が発生した場合、たとえ当該行為が医学的に正当なものであったとしても、医師等に、当該医療行為について、民事上または刑事上の責任が発生する可能性があります。このように、医療機関が患者に対し、身体への侵襲を伴う医療行為を行う際には、患者の同意を得ることが欠かすことはできないといえます。

(2)患者に対する必要な情報の提供
もっとも、患者からの同意をただ取得すればいいのではなく、手術や検査等の医療行為を受けるかどうか、または、どのような医療行為を受けるかについては,患者自らが決定すべき事項である以上、医療行為の実施及び選択に関する決定は、実施される医療行為の目的や内容を患者が理解した上で行わなければ、患者自身による意思決定がなされたとはいえません。

そこで、医師は、手術や検査等の医療行為を行うに先立って、患者がその目的や内容を理解し、当該医療行為を受けるかどうかを判断するために必要な情報を提供する義務を負っているといえます。

3 患者から書面で同意を得る意義等について

(1)同意の存在を示す証拠となること
まず、患者からの同意は、口頭であろうと書面であろうとどちらでも構わないものです。なぜなら、重要なのは、患者が医師から必要な説明を受けた上で医療行為の実施に納得し同意したかどうかであるからです。

このように、患者から書面で同意を得ることは不可欠ではないのですが、患者からの同意書があれば、患者や家族との間で紛争になった場合に、口頭での同意のみしかない場合と比べて、患者による同意の存在を立証することが容易になります。

なお、説明の結果を証拠として残すためにも、同意書の中には、説明の中身の記載をしておくことにします。そして、患者に対する説明の際に、説明書等の書面を交付した場合には、渡した説明書を必ずコピーして、そのコピーを診療記録に綴り、別紙説明書を渡して口頭で説明とカルテに記載して、説明した事実を日時・場所とともに明記しておくようにしてください。

(2)医療従事者間において同意の有無を確認することができる
どのような内容の医療行為につき、患者から同意が得られているかを書面で明確にしておくことは、医療従事者間の認識を共通化する上でも役立ちます。

すなわち、説明の中身が記載された同意書を得ることにより、検査技師も、患者が医師からどのような説明を受けた上で同意を得ているのかが明らかになるという点で、安心して検査を実施することができます。

(3)同意書の存在を検査等の実施条件とすること
患者に対する説明が不十分なまま検査等が実施された後に生じた医療事故について、看護師や検査技師等が責任を問われないようにするためには、同意書がない場合には、検査等を実施することができない体制を構築することが必要といえます。

具体的には、医師からの検査指示があった場合に、検査技師は、患者の同意書があることを確認した上で検査を実施するようにします。また、看護師は、患者を検査室等に送る際に、患者の同意書があることを確認した上で患者を検査室等に送るようにします。

4.女性患者への対応

レントゲン検査等における女性患者に対する対応としては、どういったものが望ましいか。

1 考えられるリスク

レントゲン検査や超音波検査等を実施する際に、女性患者から検査技師によって、検査に必要もないのに見られたり、触られたりしたというクレームがなされるといったリスクがあります。また、クレームにとどまらず、患者が警察に被害届等を提出されるといったリスクもあります(なお、検査技師が検査に乗じて、女性患者へわいせつ行為を行った場合には、準強制わいせつ罪が成立します。)。

2 上記リスクに対する対応策

(1)女性技師による検査の実施
検査を行う技師が女性であれば、上記リスクは未然に防ぐことができると考えらます。

(2)女性職員を含む形での複数人の検査への同席
検査の際に女性技師がいない場合、女性患者と1対1の状況にならないように、女性の職員を検査室に同席させるようにします。

(3)女性患者の羞恥心に対する配慮
胸部等の女性患者が羞恥心を感じやすい部位に対し、検査・接触する際には、事前に声をかけた上で検査方法の説明をし、患者から了解を得るようにしておくことが非常に重要です。また、検査に支障がないのであれば、患者が羞恥心を感じないようにするためにバスタオルなどを活用することも考えられます。

5.熱傷事故

リハビリ中の患者に熱傷事故が発生してしまった場合の責任はどうなるか。熱傷事故防止のための体制づくりとしてどのようなものが考えられるか。

1 事故防止策について

過去に発生した熱傷事故の原因を分析した上で、その発生原因をできる限り除去することが求められます。

(1)過去の熱傷事故例
機械浴にて入浴介助の際、浴槽につかる時に湯加減を確認せず操作を行い、高温による熱傷を受傷させてしまった事例等が挙げられる。

(2)事故原因から見る事故防止策

ア 患者が使用する浴室では、あらかじめ熱傷を起こすような高温の湯が出ないように調整する。
イ 患者を浴槽に入れる前には必ず湯温を確認することを徹底する。

6.患者私物の毀損

院内または院外において、患者の私物(ex.眼鏡、入れ歯、花瓶)を破損した場合、どのような責任を負うか。また、その場合の対応としては、どのようなものが望ましいか。

1 民法上の責任

医療従事者の過失(不注意)により、患者の私物を破損した場合には、民法上の損害賠償責任を負うことになります。

2 損害賠償額の算定

次に、損害賠償額の算定が問題となりますが、この点については、当該私物の代替物を購入するに際しての見積書や領収書等を患者から提供してもらうことで、損害賠償額を算定することが考えられます。

なお、患者の私物の破損につき、患者の側にも過失(不注意)があった場合には、過失相殺により、損害賠償額を減額を求めることが可能です。

3 示談契約の締結

損害賠償額についての話がまとまった場合には、患者と病院側との間で示談契約を締結します。示談契約を締結するに際しては、その内容を事前に弁護士等に確認してもらうようにします。

7.落とし物

患者が院内(ex.検査室内)において、忘れ物をした場合、どのように対応したら良いか。その場合における病院の責任としてどのようなものがあるか。

1 施設占有者の義務等

(1)届出を受けた拾得物件については、原則として、速やかに、落とし物をした人に返還するか、又は警察署長に提出する必要があります(遺失物法13条)。そして、落とし物をした人に返還し、又は警察署長に提出するまでの間、善良な管理者の注意をもって拾得物を取り扱う必要があります(遺失物法15条)。

(2)届出を受けた拾得物件を警察署長に提出するときは、所定の事項を記載した提出書を提出する必要があります(遺失物法施行規則26条)。

(3)落とし物を拾得した人から請求があった場合には、預り証等の書面を交付する必要があります(遺失物法第14条)。

(4)不特定かつ多数の者が利用する施設では、落とし物をした人が判明するか、警察署長に提出するまでの間、拾得物に関する事項を掲示又は拾得物に関する事項を記載した書面を備え付け、これを閲覧させる必要があります(遺失物法16条)。

(5)警察は、物件の提出を受け、または、特例施設占有者から物件に関する届出を受けた場合には、①物件の種類・特徴、②物件の拾得日時・場所を公告します(インターネットで閲覧可能)。

2 特例施設占有者の取扱い(平成19年12月10日施行)

(1)施設占有者が公安委員会に対し、「特例施設占有者」と指定されることを申請し、遺失物法施行令第5条第5号に規定されている要件を満たしているとして、公安委員会がその指定をすることで、「特例施設占有者」 となります。

この特例施設占有者は、2週間以内に拾得物件に関する事項を警察署長に届け出ることで、高額な物件等を除き、物件を提出することなく自ら保管することができます(遺失物法17条、遺失物法施行令5条)。

(2)特例施設占有者は、拾得物件の落とし物をした人が判明したときは、自ら落とし物をした人への返還をするほか、法令の規定に基づいて、売却、廃棄の処分をすることができます(遺失物法20条、21条、遺失物法施行令7条ないし9条)。

3 遺失物の所有権

① 公告から3ヶ月間 落とし主のもの

② 公告から3ヶ月経過後から2ヶ月間 拾い主のもの

③ それ以降 都道府県または特例施設占有者のもの

届出から3ヶ月経つと拾い主に所有権が移転します(落し物が拾い主の物になる)。拾い主への所有権移転から、2ヶ月以内に拾い主が落し物を引き取らなかった場合は、拾い主の所有権が失われ、都道府県や特例施設占有者に所有権が移転します(拾い主が警察に届け、警察が保管していた場合には都道府県に所有権が移転、拾い主が特例施設占有者に届け、特例施設占有者が保管していた場合には特例施設占有者に所有権が移転)。

なお、傘や衣類、自転車など大量、安価な物や保管に不相当な費用を要する物については、公告から2週間経過後、警察や特例施設占有者は売却または処分することができます。

8.患者の問い合わせへのご回答

患者の診療科に対する問い合わせにおいて、誤った回答をしたため、患者が来院してしまったことから、当該患者から、タクシー代や休業補償を請求された場合、病院としてどのような対応をすべきか。

1 クレーム対応

本件は、一種のクレームであるといえるので、まずは、一般的なクレーム対応を行います。その対応として、以下のようなものが考えられます。

ア 患者の不平・不満を良く聞いた上で、ご迷惑をかけたことに対して陳謝するなどして、患者側の感情を和らげることに努力する。
イ 再発防止についての理解を得る。
ウ 当該事案において病院側に損害賠償責任があるか否か、あるとすれば損害賠償額がどの程度かを別途検討する。

2 病院が損害賠償責任を負うか

病院側に不法行為に基づく損害賠償義務が発生するのかが問題となるところ、損害賠償義務が発生するためには、病院側の過失(不注意)によって、患者に損害が発生したといえることが必要です。そして、仮に損害が発生したとしても、賠償する必要のある損害は、原則として、病院側の過失(不注意)によって通常生ずべき損害(相当因果関係ある損害)に限られます。

本件では問い合わせた患者の状態によって結論が異なると考えられます。すなわち、患者が公共機関を使用して来院できない場合には、患者がタクシーにて来院するのは通常起こりうるためタクシー代は損害といえますが、患者が公共機関を使用して来院できる場合にはタクシー代ではなく公共機関を利用した場合の交通費が損害となります。

また、患者が仕事をしている場合には、通院に要した時間に相当する休業損害は損害に含まれますが、患者が仕事をしていない場合には原則として休業損害は発生しないものと考えらます。

対応方法については、当該患者の態度や憤慨の程度等により変わり、ケースバイケースの判断になるものと考えますが、患者の要求が執拗である場合には、一般的に生じる交通費、来院に要した時間に相当する休業損害等について支払って紛争を解決すべきです。

9.診療報酬債権回収

当院において,診療報酬をお支払いいただけない患者さんが増えてきて,経営を圧迫する一因となっています。どのように対応したらよろしいでしょうか。

 医療機関が患者に対して診療報酬債権を厳格に取り立てることは,医療機関のイメージの問題もあり,なかなか難しいものです。しかし,診療報酬債権が未回収であることにより,医療機関の経営が圧迫され,結果的に医療サービスの質の低下を招いてしまっては本末転倒です。

医療機関としては,診療報酬の未回収やむなしと考えるのではなく,請求によりこれを回収することは法的に正当な権利であることを認識すべきです。

<具体的手順>
診療報酬を支払わない場合には,まず電話・戸別訪問による支払催促,文書による支払催促を行うのが一般的手段です。これらの催促にも拘わらず診療報酬を支払わない場合もあります。

その場合には,次に内容証明郵便により,「本書到達後10日以内に下記口座までお支払いください。」「お支払いのない場合には法的手段を講じることとなりますのでご了承ください。」等の強い表現を用いて通知を行うべきです。弁護氏名であれば尚良いでしょう。

それでも支払いがない場合には,「支払督促」という手続を利用するのが簡便です。支払督促とは,簡易裁判所を通じて行う法的な請求であり,患者が異議を申し立てない場合には,裁判所が「仮執行宣言付支払督促」を発布し,医療機関はこれをもって財産の差押え等の強制執行が可能となります。

<予防・対策>
以上は診療報酬債権の回収方法ですが,一番重要なことは未回収の事態を発生させないことです。

具体的な対策としては,滞納履歴がある患者等リスクの高い患者に対しては,予め支払条件を確認すること,支払遅滞が発生した場合には,支払計画を明記した念書を作成し親類を連帯保証人にする等の措置を講じることが大切です。特に入院費用など請求額が高額となる場合には,退院前に連帯保証人を付けることが効果的であります。

 

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