新型コロナウィルス感染拡大と下請法に関する法律問題

新型コロナウィルス感染拡大と下請法に関する法律問題

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新型コロナウイルス感染拡大と下請法に関する法律問題

Q1)当社は、部品製造会社(資本金額5000万円)で、機械製造会社(資本金額5億円)から部品の製造委託を受けています。当社は、契約どおりに部品を製造して機械製造会社に納品しようとしたところ、機械製造会社から、「従業員から新型コロナウィルスの感染者が発生したことにより、全従業員が濃厚接触者と判断されたため、保健所の指示により、全従業員の2週間の自宅待機の措置を取らざるを得ないこととなった。この2週間は機械製造ができない状況なので、製造が再開できるまでは部品の納入を停止したい。」と言われております。我々としても死活問題ですが、どのように対応すれば良いでしょうか?

A1)質問の件では、部品製造会社が機械製造会社に対し、部品の受領拒否が下請法に違反すると主張できるかが問題となります。下請法の適用を受ける否かは、取引内容や取引当事者の資本金額によって決せられることになります。例えば、委託取引の内容が本件のような部品の製造である場合には、親事業者の資本金が3億円超で、下請け事業者の資本金が3億円であれば下請法の適用があることになります。詳しくは、公正取引委員会と中小企業庁から発刊されているポイント解説下請法でご確認ください。
本件は、部品製造会社は資本金5000万円、機械製造会社の資本金は5億円ですので、下請法が適用されることになります。
質問の例では、発注者である機械製造会社が受領拒否を行っている事案ですので、下請法4条1項1号「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」に該当する違法があるかが問題となります。
そして、公正取引委員会が公表している下請法に関する運用基準「第4 親事業者の禁止行為 1 受領拒否」は、下請法4条1項1号にいう「下請事業者の責に帰すべき理由」に該当するものとして、下請事業者の給付の受領を拒むことが許容されるのは、下請事業者の給付の内容が下請法3条が定める契約書面に明記された委託内容と異なる場合など、極めて限定された場合に限られています。
そのため、全従業員が自宅待機の指示を受けたという事情だけでは「下請事業者の責に帰すべき理由」に該当せず、親事業者である機械製造会社が受領拒否することは下請法に違反するものとして許されないことになると考えられます。機械製造会社としては、一時的に倉庫を借りて保管するなど、何らかの代替的な方法を用いて部品を受領する必要があります。
もっとも、全従業員が自宅待機の指示を受けただけでなく、部品の性質、大きさ、量などの個別具体的な事情に鑑み、代替的な受領手段が存在せず、客観的に受領が不可能であるという事情が存在する場合には、相当期間納期を伸ばすことは下請法の違反にしないとも考えられます。経済産業省が令和2年2月14日に発表した「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する配慮について(要請文書)」の問4においても、このような場合には当事者間でこのような事情の有無を考慮することが求められております。
仮に受領の代替的な手段が存在すると考えられる場合には、下請事業者である部品製造会社としては、親事業者である機械製造会社の受領拒否が①下請法に違反することを主張して、成果物である部品の受領を求める、②公正取引委員会に相談し、調査や勧告をしてもらえるように促すということが考えられます。
もっとも、下請法違反の主張を安易に行ってしまうと、発注者との継続的取引関係を悪化させてしまうことがあり、契約を打ち切られてしまう(そのこと自体が問題ですが)など本末転倒の結果となることがあります。したがって、下請法違反の主張をしようとする場合には、弁護士とよく相談して作戦を立てて対応することが肝要であると考えられます(このリスクについてはこの後に述べる各下請法違反についても同様です。)。

Q2)Q1の例で、部品を指定の期日に納品したのに、機械製造会社から、新型コロナウィルスの影響で資金繰りが一気に苦しくなったことを理由として、代金の減額を要求されたため、減額に応じざるを得ませんでした。このような場合にはどのような対応をすれば良いでしょうか?

A2)本件の場合は、親事業者である機械製造会社が代金の減額を求めに応じて減額しているので、下請法4条1項3号にいう「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」に違反するかが問題となります。すなわち、下請代金の減額を禁止する下請法4条1項3号の規定は、下請事業者保護の観点から、下請事業者が減額に同意している場合にも適用されると解されております。そうだとすると、部品製造業者が減額に同意している場合であっても、下請法に違反するものとして、機械製造会社は、公正取引委員会による勧告や指導を受けることがあります。
また、下請法4条1項3号に違反した場合、減額に至る経緯や、減額の割合等を考慮して、下請法4条1項3号の趣旨に照らして不当性が強いときには、減額の合意が公序良俗に違反して無効となることがあり得ます(東京地裁平成22年5月12日判決)。
そこで、下請事業者である部品製造会社としては、合意に基づく下請代金の減額であっても、下請法4条1項3号の趣旨に照らして不当性が強く公序良俗に違反して無効であると主張して、全額の支払いを要求する、②公正取引委員会に相談して勧告や指導を要請するという手段を検討することになります。

Q3)親事業者である機械製造会社から、「新型コロナウィルスの感染拡大の影響で資金繰りが厳しい。部品代金の支払いにとして、サイト150日の手形を交付するのでそれで受けてもらいたい。」と言われました。しかし、このような長期サイトの手形では銀行で手形割引してもらうことができず、大変困っております。なんとかなりませんでしょうか?

A3)本件は、下請法4条2項2号にいう「一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること」に該当する違反が認められるかが問題となります。
割引を受けることが困難な手形とは、一般的に、その業界の商慣習、親事業者と下請事業者との取引関係、その時の金融情勢等を総合的に勘案して、妥当と認められる手形期間を超える長期の手形のことをいいます。概ね手形サイトは、繊維業は90日、その他の業種は120日とされていますから、それを超えてくると割引困難な手形とされる可能性が高いといえます。本件の手形は、手形サイトが150日ということですから割引困難な手形と評価できます。
したがって、部品製造業者としては、親事業者である機械製造会社に対し、下請法に違反を理由に、割引困難な手形の受領を拒否し、適正な手形サイトでの支払いを求めることや、公正取引委員会に相談をして勧告や指導を要請するという対応が考えられます。

 

 

 

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