新型コロナウィルス感染拡大に伴うイベント開催中止に関する法律問題

新型コロナウィルス感染拡大に伴うイベント開催中止に関する法律問題

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新型コロナウイルス感染拡大に伴うイベント開催中止に関する法律問題

Q1)当社は、コンサートを開催する等のイベント興行を行う会社ですが、新型コロナウィルスの感染拡大により、ライブコンサートを中止せざる得ない状況となりました。チケットを購入しているイベントに参加する予定であった顧客(以下「イベント参加予定者」といいます。)に対し、チケット代金を払い戻す法的義務がありますか?

A1)質問された点については、イベント参加予定者との契約において、イベントが中止となった場合の払い戻しについてどのように規定されていたかによって結論が異なってきます。

(1)イベント参加予定者との間で中止となった場合の払い戻しに関する合意条項がある場合
基本的には当該合意条項に従った処理がなされることになります。
なお、契約条項中に、「地震、津波等の天災、火災、洪水、疫病、ストライキ又は戦争、その他これに類する不可抗力に該当する場合にはチケット代金の払い戻しはできない。」というような免責条項が記載されていることがあります。もっとも、このように当該条項の中に「疫病」という文言が規定されていたとしても、新型コロナウィルスの感染拡大という事象があったからといって、直ちに免責されるわけではないことに注意を要します。例えばインフルエンザが流行した程度では「疫病」には該当しないと判断されるものと思われますが、今般の新型コロナウィルス感染症の流行が、罹患者数、罹患した場合の死亡率、政府や都道府県からの各種要請、非常事態宣言ないしいわゆるロックダウンの有無等の状況を踏まえ、社会への影響が多大で極めて危険な状況といえる段階に至っている場合には、「疫病」に該当し、不可抗力であるとして免責されると判断される可能性が高いと考えます。この場合には、チケット代金の払戻しに応じる義務はありません。

(2)イベント参加予定者との間で中止となった場合の払い戻しに関する合意条項がない場合
イベント参加予定者は、イベント参加契約に基づいて、契約に規定されているイベントに参加する権利を有し、イベント開催者はイベントを開催する債務を負っているわけですが、債務者であるイベント開催者の「責めに帰すべき事由」によらずにイベント開催者の債務が履行不能となったかどうかが問題となります。
最近の事例としても、多くのイベント主催者が、非常事態宣言発令前に既に政府や都道府県からの自粛要請にしたがってイベントを中止していましたが、某格闘技団体は県からの自粛要請に従わずにイベントを開催したという事例があります。政府や都道府県からの自粛要請はあくまで任意のもので強制力がないことからすると、イベント開催者の債務が履行不能になっているといえるかどうか、また中止とする判断をしたことが、開催者の「責めに帰すべき事由」に該当しないと判断できるかどうかは微妙なこともあり得、一概に決することは困難です。
もっとも、非常事態宣言発令後の都道府県知事からの中止要請(特措法45条2項)に基づきイベントを中止した場合には、強制力はないものの法律に基づく要請であり、イベント開催者のイベント開催債務は社会通念上履行不能となっており、また履行不能となったことについて開催者の「責めに帰すべき事由」はないと判断される可能性が高いと考えます(なお、この点、都道府県知事からの要請といえどもあくまで「要請」であり、強制力を伴うものではなく、中止するか否かの判断はイベント開催者に委ねられているため、自主的な中止として未だ履行不能になっていない、あるいは開催者の「責めに帰すべき事由」がないとはいえないとする見解もあるところです)。
そして、仮に、履行不能と評価でき、かつ開催者の「責めに帰すべき事由」に該当しない場合には、危険負担の問題として、民法536条1項の債務者主義の原則により、イベント参加予定者はチケット代金の支払いを拒むことができることになります。また、イベント参加予定者が契約解除をすることですでに支払済みのチケット代金は不当利得ということになりますので、主催者は、イベント参加予定者に対して、チケット代金を払い戻す義務を負うことになります。

Q2)当社では、今回の新型コロナウィルス蔓延を理由に、都道府県知事からのイベント開催の自粛ないし中止の要請に従い、イベント開催を中止する旨を発表しました。そうしたところ、イベント参加予定者から、交通費や宿泊料相当額の損害を賠償すべきだと主張されています。このような要求に応ずる必要があるでしょうか?

A2)この問題は、上述のチケット支払義務の問題とは別の法律問題となり、主催者側の債務不履行責任の問題となります(民法415条)。
主催者がイベントを開催できなかった原因は、 都道府県知事からのイベント開催の自粛ないし中止要請が出ており、これにより事実上イベントの開催が不可能な状況にあるからであり、そのような状況でイベント中止の判断をすることについてイベント開催者に帰責性はないと判断される場合が多いと考えます。よって、原則として、主催者側には故意または過失は認められず、債務者の「責めに帰すべき事由」は存しないので、交通費や宿泊料相当額の損害賠償義務は認められないことになるものと考えます。
しかし、主催者側が、本来であればもっと早期にイベント中止を決定し、イベント参加予定者に中止の事実を通知していれば、交通費や宿泊料についてキャンセル料が発生せずに済んだような場合には、決定や通知の遅れが、主催者の故意または過失によるものとして、当該キャンセル料相当額について損害賠償しなければならなくなる可能性がありますから、要注意です。

Q3)当社は、今回の新型コロナウィルス蔓延に伴い、都道府県知事からのイベント開催の自粛ないし中止の要請に従って、断腸の思いで、イベント開催を中止しました。ところが、当該イベントの会場となっている施設の事業者から、施設利用料金を全額支払うよう求めてきています。当社はこの請求に応ずる必要があるのでしょうか?
また、当社は、この施設事業者に対し手付金を支払っているのですが、こちらについて返還請求することはできないのでしょうか?

A3)まず、施設事業者との契約条項を確認して、中止の場合の支払いの要否等について規定が存在すれば、当該規定に基づいて決することになります。
また、契約条項がないか不明確な場合には、施設事業者の施設を利用させる義務が履行不能になっているといえるかどうかによって結論が変わってきます。
まず、都道府県知事からイベント開催の自粛ないし中止要請が出ていたとしても、施設事業者の債務の中核は、施設を提供することでありこれ自体は履行可能ですので、原則として施設事業者の施設を利用させる義務は履行不能になっていないと考えられます。その場合、契約に従い施設事業者はイベント開催者に対して、施設の利用の提供をする(あるいはその履行準備をして通知等をする)ことで、イベント開催者に対して契約で定められた施設利用料金の支払いを請求したり、またイベント開催者の施設利用料金の不払いを理由に契約解除をして損害賠償請求をしたりすることができることとなります(この場合、イベント開催者は、支払った手付金の返還を実質上受けられないこととなります。)。もっとも施設事業者とイベント開催者の契約において、「〇〇のイベントのために施設を提供する」など特に開催イベントを特定・限定しているような場合には、都道府県知事からの自粛ないし中止要請で当該イベントの開催が(事実上)不可能と評価できる状況になっていれば(少なくとも非常事態宣言下での特措法45条2項に基づく中止要請の場合にはそのように評価できるといえます)、施設事業者の上記債務も社会通念上履行不能になっていると評価できる余地はあります。その場合には、施設事業者の施設を利用させる義務は、施設事業者の責めに帰すべき事由によらず履行不能になったものとして、イベント開催者は反対債権である施設利用料金義務につき危険負担の原則(民法536条1項)により履行を拒めることとなります。この場合には、イベント主催者は、施設の事業者に対して、施設利用料金を支払う必要はありません。そして、イベント主催者がすでに手付金を支払っている場合には、イベント主催者が契約解除をすることにより当該手付金は施設事業者の不当利得となりますので、返還請求をすることができることになります。
なお、都道府県知事からの要請が、イベント開催者に対するイベント開催の中止にとどまらず、施設事業者に対する施設の使用制限・停止(特措法45条2項)に及ぶ状況になっている場合には、施設事業者の施設を利用させる債務が、施設事業者の「責めに帰すべき事由」によらずに履行不能になっていると評価できるかと思います(ただ、この点について、異なる見解があり得ることはQ1の解説で述べたのと同様です)。この場合には、イベント開催者は反対債権である施設利用料金義務につき危険負担の原則(民法536条1項)により履行を拒めることとなります。

Q4)当社は、今回の新型コロナウィルス蔓延に伴い、都道府県知事からのイベント開催の自粛ないし中止要請にしたがって、イベント開催を中止しました。ところが、当該イベントに際して、イベント出演者からは出演料を、会場スタッフからはアルバイト代金の支払いを求められています。当社はこの請求に応ずる必要があるのでしょうか?

A4)まず、イベント出演者や会場スタッフとの契約条項を確認して、中止の場合の支払いの要否等について規定が存在すれば、当該規定に基づいて決することになります。
また、契約条項がないか不明確な場合には、まず、イベントの中止によりイベント出演者の出演債務や会場スタッフの労務提供債務は履行不能となっており、履行不能となったことにつき出演者や会場スタッフという債務者に帰責性がないか、その場合に、反対債権である出演料やアルバイト代の支払義務についてイベント主催者が履行を拒めるかという危険負担の問題となります。イベントを中止したことについてイベント主催者に帰責性がある場合には、危険負担の法理(民法536条2項)により、イベント主催者は出演料やアルバイト代の支払を拒むことはできません。もっとも設問の事例において、都道府県知事からのイベント開催の自粛ないし中止要請が出ており、これにより事実上イベントの開催が不可能な状況にある場合には、イベント中止についてイベント開催者に帰責性はないと判断される場合が多いと考えます(少なくとも非常事態宣言下の特措法に基づく中止要請の場合には帰責性なしと判断される可能性が高いと考えます。ただし、異なる見解があり得ることはQ1の解説で述べたのと同様です。)この場合には、危険負担の原則(民法536条1項)により、イベント開催者は出演料やアルバイト代の請求に応じる必要はないということになります。

Q5)当社は、有名アイドルタレントを呼んで大規模なイベント開催を企画し、イベント当日に、当該アイドルタレントのピンバッヂ等のグッズなどを販売するため製造事業者に商品の製造を委託しておりました。今般の新型コロナウィルス蔓延に伴い都道府県知事から自粛ないし中止を要請されたことから、イベント開催を中止することになり、これらの商品はすべて不要となりました。当社としては、この製造事業者から商品を受領することを拒否し、代金支払を拒絶することはできるでしょうか?

A5)この場合は、新型コロナウィルスの感染拡大によって、ピンバッヂその他のグッズの製造義務が履行不能になったわけではなく、上述した危険負担の問題にもなりません。受領を拒否しても代金支払いを拒絶することはできませんので、注意が必要です。

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