新型コロナウィルス感染拡大による契約の不履行に関する法律問題

新型コロナウィルス感染拡大による契約の不履行に関する法律問題

タイトル

新型コロナウイルス感染拡大による契約の不履行・履行遅延の責任

Q1)当社は、製品製造会社ですが、新型コロナウイルスの感染拡大により、従業員の多数が感染して欠勤者が続出しております。その結果、製品製造が遅延することになり、発注者である取引先に対して、納期までに納品できないことになってしまいました。取引先は、当社に対し、納品遅延により生じた損害を賠償するよう主張するのですが、当社としては、新型コロナウイルスの感染拡大が原因であり、これを拒否しようと考えています。当社の主張は認められますか?

A1)本件は、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条1項)に関するものであり、当事者間の契約内容に照らして判断することができる場合はこれに従うことになりますが、契約内容に定められていなかったり、または不明確な規定しかなかったりした場合は、民法等の一般法に照らして判断することになります。そして、後者の場合には、製品製造会社が納期までに納品できなくなった事情が、製品製造会社の故意又は過失に基づくものとして、債務者の責めに帰すべき事由に該当するか、換言すれば、新型コロナウイルスの感染拡大により、製品製造会社の従業員の多数が感染し欠勤者が続出したため、製品製造ができなくなり納期までに納品できなくなったという事情が、取引上の社会通念等に照らして債務者に帰責できない事情といえるかが問題となります。
新型コロナウイルスの感染拡大により従業員の多数がこれに感染して欠勤者が続出したというのですから、人の力による支配・統制を観念することができない事象であり、外部から生じた原因であるといえると考えられます。
よって、本件の場合は、取引上の社会通念等に照らして債務者に帰責できない事情に当たるという余地があります。
問題は防止のために相当の注意をしても防ぐことができないかどうかという点です。
 
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、巨大地震が突如発生する場合とは異なり、2019年末に中国武漢において発生してから、相当の時間を経て、徐々に日本でも感染が広がっていったものであり、中国での感染拡大の状況を注視していれば、日本で感染拡大状況についても相当程度予見可能であり、納品遅延が生じないよう回避措置を取ったり、多数の欠勤者が続出した場合に備えて代替措置を取ったりすることが可能であったと評価される可能性があります。
したがって、製品製造会社が、納品遅延により生じた損害の賠償義務を免れるためには、自社においてこれほどまでに従業員の多数に感染が拡大して欠勤者が続出することは予見することができず、納品遅延を未然に防ぐための回避措置を十分取っており、代替措置も取り得なかったことなど、防止のために相当の注意をしていたとしても、これを防ぐことができなかったことを立証する必要があるものと解されます。 
 
 
Q2)当社は、非常事態宣言を受けて休業することになりました。取引先に対する商品の納付やサービスの提供ができなくなってしまいますが、当社が損害賠償責任を負うことはあるでしょうか?

A2)本件も、Q1と同様、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条1項)に関する問題です。
まずは当事者間の契約内容に照らして判断することができる場合はこれに従うことになりますが、契約内容に定められていなかったり、または不明確な規定しかなかったりした場合は、民法等の一般法に照らして判断することになります。
以下では、後者の場合について、非常事態宣言に基づき都道府県知事から事業継続を求められている業種の場合、休業要請を受けている業種の場合、またはいずれにも該当しない業種の場合に分けてご説明いたします。

1 事業継続を求められている業種の場合

都道府県知事から事業継続が求められている業種の会社の場合には、これに反して会社が自主的に休業しているため、休業が取引の社会通念等からしてやむを得ないとはいえないと考えられます。
したがって、この場合は会社が取引先に対して損害賠償責任を負う可能性が高いと考えらえられます。

2 休業要請を受けている業種の場合

この場合については、現時点では弁護士の間でも見解が分かれています。
まず、都道府県知事からの休業要請はあくまで「要請」であり、強制力を伴うものではなく、休業するか否かの最終的な判断は会社に委ねられているため、会社が休業した場合は自主的に休業したと評価する見解があります。この見解によれば、会社は取引先に対して損害賠償責任を負うと考えられます。
他方、要請に過ぎないといえども、新型コロナウイルスの全国的かつ急速なまん延を防止する目的で発せられたものであり、かかる状況下で会社に対して契約上の債務の履行を求めた場合、会社としては事業を継続させる方向に動くことになってしまい、これでは緊急事態宣言の趣旨とは逆に感染拡大に寄与する結果となってしまいます。そのため、係る状況下では、会社は事業を継続することができず、休業は取引の社会通念等からしてやむをえないものであるという見解が成り立ちます。
弊所の見解としましては、感染につながるヒトとヒトとの接触を減らし、また、可能な限り在宅での勤務を要請されているような状況おいては、休業要請を受けた会社にはその社会的責任として休業することが特に求められていると考え、休業について当該会社に責任を負わせることは不相当であり、会社は取引先に対して損害賠償責任を負わないと考えます。
もっとも、冒頭で述べたとおり、この問題については見解が分かれるところであり、個別の事案に応じて結論が異なる可能性がありますので、今後の司法上の判断等を注視していく必要がございます。

3 上記1または2のいずれにも該当しない業種の場合

この場合についても、上記2と同様、見解が分かれます。
一方では、休業要請すら受けていない以上、休業するか否かの判断は会社による任意のものであり、休業は社会通念等からしてやむを得ないとはいえないないという見解があります。
他方、休業要請を受けていないとしても、前述した会社の社会的責任に照らせば、会社には新型コロナウイルスのまん延防止にできる限り協力することが求められているのですから、いかなる方法によっても感染リスクを減らしながら契約上の債務を履行することができない場合には、休業は社会通念等からしてやむを得ないものであって、会社は取引先に対して損害賠償責任を負わないという見解も成り立ちます。
この問題についても、個別の事案に応じて結論が異なる可能性がありますので、今後の司法上の判断を注視していく必要がございます。
 
 
 

 

 

<本Q&Aご利用上のご注意>

本Q&Aは、あくまでも弊所の弁護士による一つの見解を示したに過ぎず、事案によって結論は異なってくる可能性があります。本Q&Aに基づいて行動した結果、損害が発生したとしても一切賠償等には応じかねます。必ず、事前に弁護士に相談して、当該弁護士のアドバイスに従って対応するようにして下さい。

 

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