留置期間満了で返送された内容証明郵便の到達の有無について研究しました。

判例研究

留置期間満了で返送された内容証明郵便の到達の有無について研究しました。

令和3年3月24日(水)に留置期間満了で返送された内容証明郵便の到達の有無について研究しました。

日時 令和3年3月24日(水)
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 中村 駿
内容 留置期間満了で返送された内容証明郵便の到達の有無について

第375回判例・事例研究会

日時 令和3年3月24日(水)

場所 湊総合法律事務所

報告者  弁護士 中村 駿

事件の表示 最高裁平成10年6月11日
事案の概要 X及びYは、それぞれ故Aの子であるところ、Xの代理人であるZ弁護士はYに対し、遺留分減殺請求の意思表示を内容証明郵便(以下「本件内容証明郵便」という。)の方法をもって行った。本件内容証明郵便はYが不在であったためYには配達されず、Yは不在連絡票を受け取ったが、仕事が多忙であるとの理由から再配達を依頼せず、本件内容証明郵便は留置期間満了でXに返送された。なお、本件内容証明郵便の発送に先立ち、ZはYに対し、遺産分割協議を申し入れる旨の書面を普通郵便(以下「本件普通郵便」という。)で発送し、Yはこれを受領するとともに、B弁護士に相談をし、遺留分減殺請求についての説明を受けていた。Xは、後日、Yに対し遺留分減殺請求訴訟を提起したところ、Yは、本件内容証明郵便はYが実際に受領していないことから、Yには了知可能性がなく、遺留分減殺請求の時効の成立前に到達していないと主張し争った。原審は、本件普通郵便を受け取ったことによって、Yにおいて、Xが遺留分に基づいて遺産分割協議をする意思を有していると予想することは困難であり、Yとしては、Z弁護士から本件内容証明郵便が差し出されたことを知ったとしても、これを現実に受領していない以上、本件内容証明郵便にXの遺留分減殺の意思表示が記載されていることを了知することができたとはいえない。そうすると、本件内容証明郵便が留置期間経過によってZ弁護士に返送されている以上、一般取引観念に照らし、右意思表示がYの了知可能な状態ないし勢力範囲に置かれたということはできず、また、Xとしては、直接Y宅に出向いて遺留分減殺の意思表示をするなどの他の方法を採ることも可能であったというべきであり、Xの側として常識上なすべきことを終えたともいえない。さらに、Yにおいて、正当な理由なくXの遺留分減殺の意思表示の受領を拒絶したと認めるに足りる証拠もないとして、到達を否定した。これに対しXが上告した。
争点 留置期間満了により返送された内容証明郵便の到達の有無
結論

判旨

隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最高裁昭和三三年(オ)第三一五号同三六年四月二〇日第一小法廷判決・民集一五巻四号七七四頁参照)。
ところで、本件当時における郵便実務の取扱いは、
① 内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には、不在配達通知書を作成し、郵便受箱、郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れる
② 不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、その他の書留等)等を記入する
③ 受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る
④ 原則として、最初の配達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、
というものであった。本件の事実関係によれば、Yは、不在配達通知書の記載により、Z弁護士から本件内容証明郵便が送付されたことを知り、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間B弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、Yとしては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべ
きである。また、Yは、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、Yの了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点でYに到達したものと認めるのが相当である。
関連判例 1、肯定例
①東京地判昭 43・8・19 判示五四八号七七頁(賃料支払の催告)
②福岡地判昭 51・5・13(消滅時効の中断事由である催告)

③東京地判昭 61・5・26 判時一二三四号九四頁(消滅時効の中断事由である
催告)
「消滅時効の制度の趣旨は、法律関係の安定のため、あるいは時の経過に伴う証拠の散逸等による立証の困難を救うために、権利の不行使という事実状態と一定の期間の継続とを要件として権利を消滅させるとするものであり、また権利の上に眠っている者は保護に値しないとして保護しないとすることにあるとされているが、催告を時効中断の事由とした理由は、催告により権利者の権利主張がされ、時効の基礎たる事実状態が破られるとともに、催告をした権利者はもはや権利の上に眠れるものとはいえないからにほかならないものと解される。右のような時効制度の趣旨を前提として考えると、本件にあっては、原告は、催告の趣旨を記載した内容証明郵便を郵便局に差し出すことによって、既に自己のなし得る限りのことをなしたもので権利の上に眠っているとはいえないし、右の内容証明郵便が不在のため被告会社らに到達しなかったとはいうものの、郵便局員が不在配達通知書を被告方に差し置き、右被告らが一挙手一投足の労によりこれを受領することが可能となっていたものであって、これにより権利者の権利主張がされ時効の基礎たる事実状態が破られたものと考えることができる。したがって、本件の催告は、遅くとも内容証明郵便の留置期間満了の日に到達した」
④東京地判平5・5・21 本誌八五九号一九五頁(賃貸借契約解除の意思表示)
「内容証明郵便が名宛人の不在により受領されない場合、郵便配達員は不在配達通知書を名宛人方に差し置き、その受領を可能にしているものであるから、右内容証明郵便は、特段の事情がない限り、留置期間の満了により名宛人に到達したと解するのが相当であるが、本件各証拠によるも、被告が右内容証明郵便を受領しなかったことにつき特段の事情があったとは認め難い。むしろ、被告は、右内容証明郵便が出される二〇日前に賃料の支払を催告する書面を受け取っているから、同被告の原告に対する敵対的な態度に鑑みると、同被告は、あえて右内容証明郵便の受領に赴かなかったとみられる事案である。」
2、否定例
①東京地判昭 48・10・18 判時七三二号七〇頁(賃貸借契約解除の意思表示)
②大阪高判昭 52・3・9判時八五七号八六頁(賃貸借契約解除の意思表示)
内容証明郵便が受取人不在により郵便局に留置かれ、留置期間経過によつて差出人に還付された場合において、「不在配達通知」からは右郵便物を推認することは困難であることなどの理由により、他に特段の事情のない限り、これによつて意思表示の「到達」があつたと解するのは相当でないとされた。

 

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