交通事故による保険金請求の免責事由である重過失の有無が争われた事例について研究しました。

判例研究

交通事故による保険金請求の免責事由である重過失の有無が争われた事例について研究しました。

令和5年3月29日(水)交通事故による保険金請求の免責事由である重過失の有無が争われた事例について研究しました。

日時 令和5年3月29日(水)
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 橫田 将宏
内容 交通事故による保険金請求の免責事由である重過失の有無が争われた事例について研究しました

第403回 判例・事例研究会

日時 令和2年8月27日

場所 湊総合法律事務所

報告者  弁護士 橫田 将宏

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事 件 名 保険金請求控訴事件
事件番号 福岡高等裁判所 令和2年(ネ)第143号
判決日付 令和2年8月27日
判示事項
午前5時に車道の中央分離帯寄りの位置で歩行又は一時的に佇立していた歩行者が交通事故に遭遇した保険事故に係る保険金請求における重大な過失に起因する旨の免責事由の適用の有無
事案の概要(判決理由より抜粋)
第2 事案の概要
本件は、被控訴人を保険者とし、Aを保険契約者及び被保険者とする積立保険契約(以下「本件保険契約」という。)における指定代理請求人である控訴人が、Aが交通事故により傷害を負い、その治療のため入院して手術を受けたことから、本件保険契約に基づき、被控訴人に対し、本件保険契約の総合医療特約、入院保障充実特約及び傷害損傷特約による給付金・・・の支払を求めたのに対し、被控訴人が、上記交通事故はAの重大な過失に起因して発生したものであるから被控訴人は保険金の支払義務を免責されると主張して、争った事案である。原審は、被控訴人の上記主張を認めて控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。
1 前提事実・・・
(1)当事者等
ア 控訴人は、Aの母であり、本件保険契約における指定代理請求人である。
イ 被控訴人は、生命保険業等を目的とする相互会社であり、本件保険契約における保険者である。
(2)本件保険契約の締結
Aは、被控訴人との間で、平成27年4月1日、被控訴人を保険者とし、Aを保険契約者及び被保険者とする、以下の内容の・・・保険契約(本件保険契約)を締結した。
・・・
特約 総合医療特約(180日型)、入院保障充実特約、傷害損傷特約
(3)交通事故の発生
以下の事故(以下「本件事故」という。)が発生した・・・。
ア 発生日時 平成28年12月14日午前5時頃
イ 発生場所 ・・・路上・・・
ウ 事故態様 Bが普通乗用自動車(以下「B車両」という。)を運転し、福岡県道b線(以下「本件県道」という。)のc3丁目方面からd1丁目方向に向かう車道(以下「本件車道」という。)の第2車線を時約50kmで進行するに当たり、進路前方の同車線上にいたA(当時33歳)にB車両右前部を衝突させた。
(4)Aの受傷及び入院
Aは、本件事故により、左急性硬膜下血腫、遷延性意識障害、外傷性てんかん、頭蓋骨骨折、左頭部難治性皮膚潰瘍等の傷害を負い、その治療のため、平成28年12月14日から平成29年7月7日までH1病院に入院し、同日以降、継続加療目的で、H2病院に入院している。
(5)給付金の支払事由の存在及びその額
ア Aは、本件事故(不慮の事故)による傷害の治療を目的として、前記(4)のとおり入院し、頭蓋内血腫除去術等の手術、その他の治療を受けたところ、この入院、手術又は治療は、本件保険契約に係る保険約款(以下「本件約款」という。)が規定する災害入院給付金(総合医療特約4条1項)、手術給付金(総合医療特約7条1項)、入院保障充実給付金(入院保障充実特約(09)
4条1項)及び運動器損傷給付金(傷害損傷特約(04)4条1項)の各支払事由に該当する。
・・・
(6)支払免責事由の定め
本件約款には、災害入院給付金及び手術給付金につき総合医療特約12条1号、入院保障充実給付金につき入院保障充実特約(09)7条1号、運動器損傷給付金につき傷害損傷特約(04)8条1項1号に、それぞれ、「被保険者または保険契約者の故意または重大な過失」により給付金の支払理由に該当したときは、給付金を支払わない旨の規定(以下「本件免責条項」という。)がある。
(7)給付金の請求
・・・
争点に対する判断の要旨(判決理由より抜粋)
(2)重大な過失の有無について
ア 「重大な過失」の意義
本件免責条項にいう「重大な過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである(最高裁昭和・・・32年7月9日第三小法廷判決・民集11巻7号1203頁、・・・同57年
7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1188頁参照)。そうであれば、「重大な過失」を基礎づけるに足りる被保険者等の行為(作為又は不作為)は、故意に保険事故を招致した疑いのあるものである必要はないが、保険事故発生の認識又は認容があれば故意に保険事故を招致したともいえるようなものである必要があるというべきであり、被保険者等の行為がそのようなものである
ことの立証責任は、保険者にあるというべきである。
イ 本件へのあてはめ
そこで、Aに重大な過失があったと認められるかについて検討すると、・・・Aは、・・・中央分離帯に沿って本件車道の第2車線上を・・・歩行し、又は一時佇立していた可能性が高いというべきである。確かに、車道は、車両の通行の用に供するためのものであり(道路交通法2条1項3号)、本件事故現場付近のように両側に歩道がある道路においては、歩行者は、横断等をする場合を除き、歩道を通行することを求められており(道路交通法10条2項)、車道を歩行することは予定されていない上、本件事故が発生したのは、本件事故現場周辺がまだ暗い時間帯であり、そのような中、黒い着衣で本件車道を歩行したAに過失があったこと自体は、否定できない。しかし、前記認定事実によれば、本件事故現場は、見通しの良い片側2車線の一般道路上の地点であり、本件事故発生当時の交通は、その直後に行われた実況見分時と同様に、閑散としていた可能性が高いと考えられる。
・・・
これに加えて、前記認定のとおり、Aが本件車道の第2車線の中央分離帯寄りを歩行していた可能性が高いと推認されることも併せ考えると、Aにおいて、前記のような道路状況の下でAの後方から接近して来る車両の運転者が前方を注視して走行することにより、Aの存在を認識し、僅かのハンドル操作により容易にAを回避して、その側方を通過するものと期待することにも、一定の客観的合理性があったものということができる。これらの事情を総合すれば、本件事故の発生について、Aの行動に過失があったことは否定できないとしても、それが、ほとんど故意に近い著しい注意欠如といえるようなもの、すなわち、Aが本件事故の発生を認識、認容していたと仮定した場合に、故意に本件事故を招致したと評価できるようなものであったとまでいうことはできない。
そうすると、Aには、本件事故の発生について、重大な過失があったということはできず、他に、本件保険契約に基づく本件事故に係る保険金の請求について、支払免責事由があることの主張立証はない。
・・・

 

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