議決権拘束契約の法的効力について研究しました。

判例研究

議決権拘束契約の法的効力について研究しました。

令和3年8月4日(水)議決権拘束契約の法的効力について研究しました。

日時 令和3年8月4日(水)
場所 湊総合法律事務所
報告者 弁護士 野村 奈津子
内容 議決権拘束契約の法的効力について

第384回 判例・事例研究会

日時 令和3年8月4日

場所 湊総合法律事務所

報告書 弁護士 野村 奈津子

【判例】

事件の表示 事 件 名

株主総会において取締役選任議案に賛成の意思表示を求める訴え控訴事件

事 件 番 号

令和元年(ネ)2796号

決 定

東京高等裁判所 令和 2 年 1 月 22 日 判決

事案の概要 第1審原告X1の父であり、第1審原告X2の祖父であるB(以下
「B」という。)、第1審被告の父であるC(以下「C」という。)及び
D(以下「D」という。)の3名は、いずれも、昭和 47 年2月 24 日当
時、本件会社の株主であった。B、C及びDの3名は、本件会社の株主
間合意として、文書で「取締役は、B、C及びD(その指名された者を
含む。)を互選する。」という取締役選任合意(以下「昭和 47 年合意」
という。)をした。その後、第1審原告らはBから本件会社発行の株式
を相続等により承継し、第1審被告はCから本件会社発行の株式の信
託譲渡を受けた。
第1審原告らは、昭和 47 年合意上の取締役候補者としてのBの地位
を承継した第1審原告X1を本件会社の取締役に選任するように議決
権を行使する義務を第1審被告が負っていると主張して、第1審被告
に対し、昭和 47 年合意に基づき、本件会社が今後開催する第1審原告
X1を取締役に選任する議案が提出された株主総会において、同議案
に賛成する旨の意思表示をすることを求めた。
原判決は、第1審原告らの請求をいずれも棄却した。これを全部不服
とする第1審原告らが控訴した。
判旨(一部抜粋) 控訴棄却。
「1 株主間契約の効力の判断方法
(1) 株主の議決権行使や株式会社の運営に関する株主間の契約の
効力については、これを一律に無効と解すべきではない。株主間の議決
権行使契約については、契約当事者の一方が他方に対して契約に沿っ
た議決権行使の履行強制をすることができる場合もあれば、契約に沿
わない議決権行使により成立した株主総会決議に決議取消事由がある
ことを肯定できる場合もあると考えられる。
(2) しかしながら、株主間契約については、契約当事者の属性、
契約内容、契約締結の動機目的、契約当事者の有する株式の種類や議決
権の総株主に占める割合、契約の締結時期などが、千差万別である。こ
れに伴い、株主間契約の法的効力の有無や法的効力がある場合の効力
の内容をどの程度のものにするかについての契約当事者の認識も、千
差万別である。
そうすると、株主間契約に基づく当事者の主張については、事実認定
の問題として、個別の株主間契約ごとに、会社法その他の関係法令の趣
旨を考慮に入れて、前記の各要素を検討の上で契約当事者たる株主の
合理的意思を探求し、当事者双方が法的効力を発生させる意思を有し
ていたか、法的効力を伴わない紳士協定的なものとする意思を有して
いたにすぎないか、法的効力を発生させる意思を有していた場合にお
ける効力の内容・程度(損害賠償請求ができるにとどまるか、契約に沿
った議決権行使の履行強制ができるか、契約に沿わない議決権行使に
より成立した株主総会決議の決議取消事由を肯定するか、契約の終期
など)について、契約当事者の意思を事実認定した上で、当事者の主張
する法的効果が肯定できるかどうかを判断していくことになる。」
「その内容、方針、意図から法的効力を発生させる意思が明確に認定で
きる株主間契約については、契約に沿った議決権行使の履行を強制す
る内容の裁判(判決・仮処分命令)をすることが可能であり、契約に沿
わない議決権行使により成立した株主総会決議について、定款違反が
あった場合に準じて、株主総会決議取消の判決をすることも可能であ
ると考えられる。ただし、後者の株主総会決議取消判決ができるのは、
株主間契約の当事者ではない株主に予想外の影響を及ぼすことを避け
るために、発行済株式の全部を株主間契約の当事者が保有している場
合に限られる。
株主間契約の終期については、株主間契約の内容や契約当事者の方
針、意図などから、確定期限、不確定期限、解除条件などの終期の有無
を、個別の株主間契約ごとに認定していくほかはない。いわゆる事情変
更の原則を適用することも、考えられる。株主間契約に具体的な定めが
ないにもかかわらず、有効期間を限定するために、一律に契約の有効期
間の定めがあるなどと判断する(米国の州法にならって契約締結後 10
年間に限り有効であると解釈する等)ことは、必要がないものと解され
る。」
「自然人たる株主を契約当事者とする株主間契約や議決権行使契約
を、何年も何十年も先の将来に向けて有効な契約として締結するとき
は、契約当事者たる株主に相続が発生した場合の取扱いが困難である。
株主間契約について、これを一身専属的な契約であるとみて株式を相
続した相続人には契約上の地位が承継されないのか、それとも私法に
おける原則のとおり株式を相続した相続人には契約上の地位が承継さ
れるのか、遺産分割等により複数の相続人に株式が分割して帰属した
場合にはどうなるのかなどの取扱いが困難である。株式を特定の者に
遺贈する遺言をしておくとしても、受遺者が先に死亡したり、別の理由
から新たな遺言をする必要性が生じて前の遺言が取り消されたり、遺
留分侵害額請求権に対応するために株式の売却を余儀なくされたりす
るというリスクは残る。契約時と相続開始時で法定相続人(推定相続
人)が異なる事態も想定される。そのため、あらゆる事態に対応できる
ような株主間契約の契約条項を予め定めておくことは、なかなか困難
である。
(4) 特定の自然人を取締役候補者や契約当事者とする株主間契約
は、法的効力をあまり意識していない紳士協定的なものが多いと考え
られる。仮に法的効力を付与する意思があるとしても、何年も何十年も
先の将来にまで法的効力が及ぶという意思で契約を締結したのではな
く、当面の短期間(例えば次の直近の株主総会)に限り強い効力(契約
に沿った議決権行使の履行強制ができる効力)を付与する意思で契約
を締結したにすぎない場合が多いと考えられる。」
「昭和 47 年合意(取締役選任合意)の契約当事者の意思は、法的効
力を付与するものではなく、次の直近の定時株主総会(昭和 47 年5月)
における取締役選任議案についての議決権行使内容を、事実上、事前に
確認するものであったという事実を認定するのが、無理のないところ
である。取締役選任合意に何らかの法的効力を付与する意思があった
という事実を認定することは困難である。まして、将来に向かって、昭
和 47 年5月より後に開催される株主総会についても、強い法的効力(契
約に沿った議決権行使の履行強制をすることができる)を付与する意
思があったという事実を認定するには、無理があるというほかはない。
また、仮に契約当事者において昭和 47 年合意(取締役選任合意)に
何らかの法的効力を付与する意思があったとしても、その契約当事者
の意思は、特定人たる取締役候補者又は自然人たる契約当事者に相続
が発生した場合においては、合意の法的効力は消滅するというもので
あったと推認するのが、無理のないところである。そして、前記認定事
実によれば、控訴審口頭弁論終結時において、特定人たる取締役候補者
及び自然人たる契約当事者の全員が死亡し、相続が発生している。した
がって、仮に何らかの法的効力を付与する意思があったとしても、合意
の法的効力は既に消滅していることになる。」

以上

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