会社法改正要綱案と中小企業への影響を探る

会社法改正要綱案と中小企業への影響を探る

Ⅰ 今回の会社法の改正の意義と今後のスケジュール

法務大臣は、2017年2月の法制審議会(総会)第178回会議において、「近年における社会経済情勢の変化等に鑑み,株主総会に関する手続の合理化や,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備,社債の管理の在り方の見直し,社外取締役を置くことの義務付けなど,企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上,当該規律の見直しを要する場合にはその要綱を示されたい。」との諮問を行い、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会に付託して審議を開始しました。2018年2月には「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」が公表され、これに対する意見公募手続を踏まえて、2019年1月に同部会において会社法改正要綱案を決定し、同年2月に開催された会社法審議会総会において会社法改正要綱(以下「要綱」と言います。)を決定しました。その後は法務大臣に答申した後、今秋にも開催される臨時国会に会社法改正案が提出されて、2020年の施行を目指すものと考えられます。

本稿では紙面の関係上、要綱のうち主要なものを紹介し、併せて中小企業法務への影響について解説することと致します。また本稿中の条文は現行の会社法です。

Ⅱ 株主総会に関する規律の見直し

1 株主総会資料の電子提供制度

(1)現行法の問題点

現行法においても、取締役は、株主総会の招集にあたり、株主の個別の承諾を得れば、株主総会資料(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類及び事業報告、連結計算書類等)を書面に代えて、インターネット等を利用することにより提供することも可能ではありました。しかし、上場会社等においては、株主の数が極めて多く、全ての株主から個別的に承諾を得ることはほぼ不可能であり、インターネット等を用いた提供の利用は限定的になものに止まっておりました。

(2)電子提供制度の創設

そこで要綱は、株式会社が定款*[1]に電子提供措置をとる旨を定めることにより、取締役が株主総会を招集するに当たり、株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主にそのURL等を書面により通知した場合には、株主から個別の承諾を得ていない場合であっても、株主総会資料を適法に提供したものとする電子提供制度を創設するものとしました。電子提供制度利用促進のため、上場企業等*[2]においては、電子提供措置をとる旨を定款で定めなければならないものとされています。

(3)第299条第2項各号に掲げる場合の電子提供措置

電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は,第299条第2項各号に掲げる場合(議決権を書面若しくは電磁的記録により行使できる旨を定めた場合又は取締役会設置会社である場合)には、株主総会の日の3週間前の日又は株主総会招集通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3か月を経過する日までの間,株主総会招集事項、株主総会参考書類及び議決権行使書面記載事項、その他所定事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならいものとしています。

但し、取締役が招集通知に際して株主に対して議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に関わる情報については電子提供措置をとることは要しないものとされています。また、上場企業など、有価証券報告書の提出義務がある株式会社が、電子提供措置開始日までに、電子提供措置事項(但し、定時株主総会に係わるものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書を、EDINETを使用して行う場合には、当該事項については、電子提供措置をとることを要しないものとされています。

(4)株主総会の招集の通知等の特則

電子提供措置をとる場合の株主総会招集通知の発送期限は、公開会社、非公開会社を問わず株主総会の日の2週間前までとしています。

また、電子提供措置をとる場合の株主総会招集通知に記載又は記録すべき事項は、298条1項1号から4号に掲げる事項、電子提供措置をとっている旨、開示用電子情報処理組織を使用して行ったときはその旨、その他法務省令で定める事項とされています。

(5)書面交付請求

電子提供制度を導入すると、高齢者などインターネットの利用が困難な株主の利益を損なう可能性があります。そこで要綱では、会社が電子提供制度をとる場合、株主が会社に対し電子提供措置事項を記載した書面の交付請求をすることができるものとしました。なお、振替株式の発行会社に対する書面交付請求は、当該発行会社に対して直接請求する方法の他、直近上位機関を経由して行うことも可能としています。

もっとも、一度書面交付請求をすればいつまでもその効力が維持されるものとすると、書面交付請求をした株主が累積してしまう懸念があることから、要綱は、書面交付請求の日のから1年を経過したときは、株式会社は当該株主に対し、書面交付を終了する旨を通知し、かつ、一ヶ月以上の期間を定めて異議がある場合には異議を述べるべき旨を催告することができることとしました。この場合には当該株主が期間内に異議を述べないときは書面交付請求は効力を失うものとされています。

(6)電子提供措置の中断

電子提供措置期間中に電子提供措置の中断が生ずることもあり得ますが、このような場合に常に株主総会資料の提供がなかったものとすることは会社にとって酷な結果となります。そこで、電子提供措置の中断が生ずることについて株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること等、一定の要件を満たすときは、電子提供措置の中断は電子提供措置効力に影響を及ぼさないものとしました。

2 株主提案権の制限

(1)株主が提案することができる議案の数の制限

近時、株主提案権の行使に際して、膨大な数の議案が提案されて株主総会が混乱する事態に至ることがありました。そこで、取締役会設置会社の株主が第305条第1項の規定による請求をする場合に,当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは,上限を超える数の提案については、会社は拒絶することができるものとしました。そして、当該株主が提案しようとする議案の数が10を超える場合、10を超える数に相当することとなる数の議案は,取締役がこれを定めるものとし、当該株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には,取締役は,当該優先順位に従い,これを定めるものとすることにしました。

2 目的等による議案の提案の制限

株主提案権については、会社を困惑させるような不適切な内容の議案の提案がなされる事案もあることから、専ら人の名誉を侵害する等の目的で議案を提出したり、議案の提出により株主総会の適切な運営が著しく妨げられる等の場合には、第304条及び第305条第1項から第3項までの規定は適用しないものとしました。

Ⅲ 取締役等に関する規律の見直し

第1 取締役等への適切なインセンティブの付与

1 取締役の報酬等

(1)現行法の問題点

現行法上、取締役の報酬は、定款の定め又は株主総会の決議において概括的に定めれば良く、必ずしも個々の取締役について具体的に定める必要はないものと解されています。また、取締役に対し、株式や新株予約権を報酬とされることもありますが、その場合に、株主総会決議により定めなければならない事項が不明確であると指摘されていました。そこで、取締役の報酬の決定手続等について、透明性を高める必要があるとして見直しを提案しています。

(2)報酬等の決定方針

まず要綱は、上場会社等*[3]の取締役会は,定款の定め又は株主総会の決議により取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等(第361条第1項に規定する報酬等をいう。)の内容が定められていない場合には、その決定方針を決定しなければならないものとしました。

(3)金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め

次に、株式報酬など金銭でないものであっても、取締役に対するインセンティブ報酬として有用なものもあることから、第361条第1項第3号を改め,報酬として自社株式や新株予約権を付与する等の場合に、その数の上限やその他法務省令で定める事項等が定款に定められていないときは,株主総会の決議によってこれを定めなければならないこととしました。

(4)情報開示の充実

要綱は、公開会社における取締役の報酬等の内容の決定過程の透明性や公正性を確保するため、報酬等の決定方針に関する事項等について、事業報告による情報開示に関する規定の充実を図ることを求めています。

2 補償契約・役員等のために締結される保険契約

株式会社が役員等のために締結する補償契約*[4]や役員等賠償責任保険契約*[5]は、会社法上の明文はありませんが、役員等の優秀な人材の確保や、職務執行に対する萎縮を防止して適切なインセンティブを付与するという見地から意義を有しています。しかし、他方では、その内容如何によっては、役員等の職務の適正性が損なわれたり、株式会社と役員等の間に利益相反の問題が生じたりするおそれもあります。そこで、要綱では、補償契約や役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議によらなければならない等、明文の規律を設ける提案をしています。

第2 社外取締役の活用等

1 業務執行の社外取締役への委託

近時、社外取締役の設置が進み、その実効的な活動が期待されており、会社と業務執行者等との利益相反が問題となる場面において、取引の公正を確保する見地から、社外取締役が交渉等を行うことが期待されています。もっとも、このような活動が、社外取締役が行うことができない「業務を執行した」(2条15号イ)ことに該当して、社外性を失わせることになるのか、これまで明確ではありませんでした。

そこで、要項は、株式会社が社外取締役を置いている場合において,当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき,その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは,当該株式会社は,その都度,取締役の決定(取締役会設置会社にあっては,取締役会の決議)によって,当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるものとすることとしました。

但し、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令の下に当該委託された業務を執行したときは,業務執行取締役を監督するという社外取締役の立場と相反するので、委託することはできないこととされています。

2 社外取締役を置くことの義務付け

上場会社では、極めて多数の株主が存在し、頻繁に株主が変動するため、株主に経営を監視監督することを期待することは現実的ではありません。また社外取締役が存在しないと、業務執行から独立した立場から経営に対する監督を行って企業価値毀損を防止することに限界があります。

一方、社外取締役が設置されている場合には、社外取締役が業務執行者から独立して客観的に監督機能を発揮することを期待できることになります。平成30年7月現在の社外取締役の選任状況については、東京証券取引所に上場している会社のうち、社外取締役を選任する会社の比率は、全上場会社では97.7%に達していますが、更に社会取締役を置くことを法律により強制することにより、業務執行者に対する監督機能を強化し、日本市場に対する信頼を確保することにも繋がるものと考えられます。

そこで、要綱は、監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは,社外取締役の設置を義務づける旨の提案をしました。

Ⅳ 中小企業法務への影響

まず、株主総会資料の電子提供制度については、インターネットが高度に普及した現在においては、中小企業においても非常に有用な制度であり、多くの中小企業が採用するものと考えられます。もっとも、中小企業が電子提供措置をとる場合に、当該会社が第299条第2項各号に掲げる場合には、株主総会招集通知の発送期限を株主総会の日の2週間前よりも短縮することができないことになるので、注意が必要です。

また、株主提案権の制限については、中小企業においても適用されることになるので、中小企業においても円滑な株主総会の開催に資することになるものと考えられます。

取締役等に対する報酬規制の見直しについては、報酬の決定方針等、上場会社を対象とするものですので、基本的には中小企業には影響はないものと考えられます。

社外取締役の活用に関しても、社外取締役の設置義務づけは、上場会社を対象とするものであり、中小企業には直接的には関係していないのですが、業務執行者に対する監督機能を強化すべきであるという考え方自体は中小企業に対しても妥当するものであり、これからの中小企業経営においても十分に注意を払っていく必要があるものと考えられます。

 

【要綱案の項目】

 

第1部 株主総会に関する規律の見直し

 

第1

第2

 

株主総会資料の電子提供制度

株主提案権

 

第2部 取締役等に関する規律の見直し

 

第1

 

取締役等への適切なインセンティブの付与

取締役の報酬等

補償契約

役員等のために締結される保険契約

 

第2

 

社外取締役の活用等

業務執行の社外取締役への委託

社外取締役を置くことの義務付け

 

第3部 その他

 

第1

 

社債の整理

社債管理補助者

社債権者集会

 

第2

 

株式交付

 

第3

 

 

その他

責任追及等の訴えに係る訴訟における和解

議決権行使書面の閲覧等

株式併合等に関する事前開示事項

会社の登記に関する見直し

取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備

 

 

*[1]電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは、その定めを登記しなければならないものとされています。

*[2]社債、株式等の振替に関する法律128条1項に規定する振替株式を発行する会社

*[3]ア 監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって,金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの。 イ 監査等委員会設置会社

*[4]役員等(423条1項に規定する役員等をいう。以下同じ。)に対して費用等の全部又は一部を当該株式会社が補償する契約

*[5]株式会社が、役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係わる請求を受けることによって生ずることのある損害を補填することを約する保険契約であって、役員等を被保険者とするもの

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