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第23 高度人材の活用(2) 制限範囲限定し規定化 退職後の機密漏洩防止へ

問題

当社は、日本国内では中堅のゲームソフト開発メーカーである。近年の国際間の競争激化に対応するため、優秀なゲームプログラマーとして海外でも評価が高い外国人数名を採用しようと考えている。

ただ、将来、当社を退職した後に、当社で勤務している間に得た機密情報を外部に漏洩されることを防止するため、雇用契約書に①退職後1年間は同業他社に勤務してはならないとの規定、または、②退職後同業他社へ就職するときは退職金を自己都合退職の半額とするとの規定、及び、③退職後も一定の機密事項については第三者に漏洩してはならないとの規定を設けたいと考えている。

このような規定を設けることに問題はないか。

回答

・ 退職後の就職制限規定を設けることは、会社側が得られる営業秘密保護の利益に照らし、禁止される期間が短いことや禁止される地域が限定されている等、従業員側が被る競業禁止の内容が必要最小限で、かつ充分な代償措置がとられている場合には有効である。

・ 退職金減額規定を設けることは有効と解されるが、退職金を減額できるのは、退職の目的や態様が会社を害することが明白である等の事情がある場合に限定した方が良い。

・ 営業秘密保護義務規定を設けることは有効であるが、何が営業秘密であるかを規定中に具体的に定めておくことが重要である。

解説

1 退職後の就職制限規定の有効性

 企業が、従業員が退職した後も一定期間は同業他社に就職することを禁止する規定を設けているのは、企業の営業秘密を知悉する従業員が競合他社に就職して、それを漏洩することを防止するためであり、企業側からしてみれば合理的な意味を有する。

しかし、従業員にしてみれば、かような規定は憲法で保障されている職業選択の自由を制限されることとなり重大な不利益となり得るものである。
 この点について、従来は、退職後一定期間就職を制限する規定は、労働者の職業選択の自由を侵害するという理由から原則として無効であると解されることが多かった。

 しかし、近年は、我が国でも終身雇用制を採用しない企業が増加して雇用が流動化し、それに伴って企業の営業上の秘密が競合他社に流出することを防止することの重要性が認められるようになってきている。

 このような契約の有効性について判例は、就職を制限することで保護される会社側の利益の内容及び保護の必要性と、就職を制限されることによって被る従業員の不利益と比較考量して当該契約の効力を判断している。具体的には、会社側が得られる営業秘密保護の利益に照らし、禁止される期間が短いことや禁止される地域が限定されている等、従業員側が被る競業禁止の内容が必要最小限で、かつ、充分な代償措置がとられている場合にのみ当該契約を有効としている。

 したがって、今回の会社の場合において、採用しようとする外国人に担当させるゲームソフトプログラマーとしての職務が、会社の企業秘密にアクセスできないようなものであれば、退職後の就職を制限する雇用契約の規定は無効ということになる。

また、当該職務が、会社の企業秘密に容易にアクセスできるような立場にあったとしても、当該外国人が、本国に帰ってからも同業の会社に就職することを禁止しようとしている場合には、競業禁止の地域が広きに失するものとして雇用契約の規定は無効となるであろう。このような場合には、当該外国のどの会社に就職することを禁止するのか具体的に就職禁止企業を限定するなど、より制限的な規定を設ける必要があろう。

2 退職金減額規定の有効性

 次に、退職後同業他社に就職するときは、退職金は自己都合退職をする際の半額とする旨の規定に関し、最高裁判例は、当該規定は、退職後のある程度の期間に同業他社へ転職した場合には、勤務中の功労に対する評価が退職金に関し自己都合の退職に比べ半分になるという趣旨であり、本件退職金が功労報償的な性格を併せもっていることを考慮すれば有効と解するべきだと判示している。

 もっとも、近時の判例の中には、従業員が退職後6か月以内に同業他社に就職した場合には退職金を支給しない旨の規定の有効性について、退職金を減額または没収する規定が有効とされるためには、従業員が、それまでの勤続の功績を抹消又は減額し得るような著しく信義に反する行為を退職後に行った場合に限定されるべきであり、従業員が退職後6か月以内に同業他社に就職しただけでは足りないとして、会社が当該規定を設けることの必要性、従業員が退職した経緯、退職の目的、従業員が競争会社に就職したことで会社が被った損害などの事情を総合的に考慮して判断すべきであると判断したものがある。

 このように判例は、退職金減額ないし不支給条項の有効性について、徐々に厳格に解してきているようである。したがって、一律に退職金を半額にする規定とするのではなく、退職の目的や態様が会社を害することが明白であるなどの事情がある場合に限定するなど、規定を工夫した方が安全であろう。

3 営業秘密保護規定の有効性

 多くの企業では、退職後一定期間は営業秘密の開示をすることを禁止する営業秘密保護義務規定を置いている。会社が従業員に対し、退職後に会社の営業秘密を漏洩しないことを約束させることは会社にとって重要な意味があることであり、かような規定は、前述した退職後の就職制限とは異なり、一般には従業員に過大な負担を課するものではなく有効である。

 もっとも、営業秘密保護義務規定の内容が曖昧だと、従業員が退職後に会社に関する情報を開示した際に、会社側は営業秘密の漏洩と主張しても、従業員側は単なる情報に過ぎず営業秘密保護義務規定違反ではないと反論されてしまうことがある。

したがって、会社が営業秘密保護義務規定を定める際には、何が営業秘密であるかをできる限り具体的に特定しておくことが重要である。