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第18 人事異動~在留資格の範囲で可能 業務変更は不法就労に~ 

問題

当社は、フランスに本拠を置くコンピューター開発を主目的とするA株式会社の孫会社として日本国内で設立された株式会社Bである。この度、A株式会社と当社とで、経営効率化と競争力強化を目的として人事異動を行う計画を立てている。我々が行おうと考えている以下の人事異動は法律上問題ないか。

① A株式会社に入社し、電子工学の知識を要するコンピューター関係の業務に従事しているフランス人甲を当社に異動させること。

② 当社において、これまで「人文知識・国際業務」の在留資格で通訳・翻訳業務を行わせていた中国人乙及び丙について、乙については、経営会議室に異動して経済・経営理論の知識を要して行う営業業務を行わせ、丙については、1年間の予定で当社の関連会社であるC株式会社にソフト開発技術を身につけさせるために出向させること。

回答

・ フランス人甲は、A株式会社と株式会社Bの間に一定の支配関係があれば「企業内転勤」の在留資格で異動させることができる。

・ 中国人乙は、異動前後の業務がいずれも「人文知識・国際業務」の在留資格であることから異動させることができる。

・ 中国人丙は、出向前後の業務に対応する在留資格が異なることから異動させることができない。

解説

1.フランス人甲について

日本に所在する株式会社Bは、フランスに本拠を有するA株式会社の孫会社ということであるから、甲の異動の可否については、「企業内転勤」の在留資格が認められるかが問題となる。

まず「企業内転勤」とは、日本に本店、支店その他の事業所がある公私の機関のある外国の事業所から、当該外国の事業所に勤務する職員が日本にある事業所等に転勤して、「技術」又は「人文知識・国際業務」の在留資格に対応する活動をする場合に与えられる在留資格である。

フランス人甲は電子工学の知識を要するコンピューター関係の業務に従事しており、株式会社Bにおいて「技術」の在留資格に対応する活動をさせるのであれば「企業内転勤」として認められる可能性がある。

次に「転勤」とは、「企業内転勤」に関する場合には系列企業内の出向も含まれる。この系列企業内とは、「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令59号)第8条にいう「親会社」、「子会社」及び「関連会社」を指す。株式会社では、他の会社の過半数の株式を所有している会社が「親会社」であり、当該被支配会社が「子会社」となる。子会社と孫会社との関係も同様であり、親会社から孫会社への異動も「企業内転勤」の在留資格を取得することが可能である。

したがって、A株式会社と株式会社Bとの間に、かような支配被支配関係認められれば、フランス人甲を「企業内転勤」の在留資格で株式会社Bに異動させて就労させることができる。

2.中国人乙について

外国人を採用後、社内において経営効率化や利益追求のため人事異動が必要となることがある。しかし、外国人は、原則として在留資格で認められた範囲内でしか就労することができないのであり、日本人と同様の感覚で人事異動させると不法就労になってしまうことがあるから注意を要する。

外国人に対する人事異動が認められるためには、異動後の業務が在留資格に該当すること(資格該当性)、当該外国人の学歴や実務経験等が当該在留資格に係わる基準に適合していること(基準適合性)及び異動後の業務に継続性安定性があること(継続性安定性)が必要である。

中国人乙の場合、異動後に同人に行わせたい業務は経営会議室において経済・経営理論の知識を要して行う営業業務であり、これは「人文知識・国際業務」の在留資格に該当する。そして、乙は、既に「人文知識・国際業務」の在留資格で株式会社Bにおいて通訳・翻訳業務を行ってきたのであるから基準適合性も充足する。

したがって、異動後の業務に継続性安定性が認められるならば、乙の人事異動は適法に認められるものと考えられる。

なお、乙を単に顧客獲得のための営業活動を行わせるために異動するような場合には、単純労働に過ぎず資格該当性が認められないことから人事異動は認められないことに注意していただきたい。

3.中国人丙について

企業においては、従業員の育成を図るために他社に出向させて業務を行わせることがある。出向の形態には出向元との雇用関係を維持したまま出向先に出向させる在籍出向と、出向元との雇用関係を解消して出向先に出向させる転籍出向とがある。

本件は1年に限って中国人丙を出向させ、後日、株式会社Bに戻ってもらうことを検討しているので在籍出向の事案であり、株式会社Bが、中国人丙をソフト開発技術を身につけさせるために関連会社Cに出向させることができるかが問題となる。外国人従業員を他社に出向させる場合も上述した資格該当性等の要件を充足する必要がある。

この点、中国人丙に行わせようとしている業務は、コンピューターソフト開発業務ということであるから、「技術」の在留資格が問題となる。しかし、丙がこれまで行っていたのは通訳・翻訳業務であり、「人文知識・国際業務」の在留資格しか有していないから、丙は資格該当性の要件を充足しない。
したがって、株式会社Bは、中国人丙をC株式会社に出向させることはできない。この場合に、日本人に対するのと同様の感覚で在籍出向させてしまうと、中国人丙は不法就労になるとともに、出向元出向先双方に不法就労助長罪が成立する可能性があるから注意が必要である。

外国人社員を適法に出向させるためには、外国人従業員に出向先で行わせる業務内容が、出向元で従事するために得た在留資格の活動と同範囲である必要があるから十分ご注意いただきたい。