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第16 技能実習生の労災対応

質問

当社は、食品加工業を営んでおり外国人技能実習生を受け入れている。先日、技能実習生甲が、食品加工の実習中に加工用機械に手を挟まれて重傷を負ってしまった。また、以前、当社に来ていた技能実習生の態度が悪くて叱りつけたところ会社に来なくなって困ったことがあったので、それを防止するために甲への賃金の一部を会社にプールしていた。

 そうしたところ、甲の代理人弁護士から、今回の事故について労災申請をすること、損害賠償すること及び会社にプールしていた賃金を支払うことを求める内容証明郵便が届いた。当社はどのように対応すれば良いか。

回答

①会社は甲のために労災保険の申請をしなければならず、会社に帰責事由あるときは労災によって填補されない損害について民事上の損害賠償もしなければならない。

 ②会社はプールしていた賃金を甲に直ちに返還しなければならない。

解説

1. 入管法改正

我が国には研修・技能実習制度があるが、これは技能、技術及び知識を開発途上国に移転することを通じて国際協力を行うことを目的とする制度である。しかし、現実には研修生を、労働力の不足を補うために研修生を利用したり、低賃金労働者として酷使するなどの実態があり、問題視されてきた側面があった。

 そこで、2009年の入管法改正(2010年7月1日施行)は、「技能実習」の在留資格を整備して、同在留資格により在留する外国人に対し労働関係法令が適用されるようにするなど是正措置を講じることとした。したがって、外国人技能実習生甲も労働基準法や最低賃金法等によって保護されることになる。


2 労災申請と民事損害賠償

(1) 甲は技能実習中に加工用機械に手を挟まれて重傷を負っており、甲にも労働基準法の適用があることから、会社はその過失の有無を問わず、労働基準法上の災害補償責任を負う。よって、会社は、甲代理人弁護士の要求にしたがって労災申請しなければならない。

(2) 労災申請によって労災保険が支給される場合は、会社は支払われた価額の範囲で民事上の損害賠償の責任を免れることになる(労基法84条)。 注意が必要なのは、労災保険は、労使の過失の有無を問わず、一定の給付を簡易迅速に補償する国の制度であり、必ずしも民法上の損害賠償の範囲を網羅してはいるわけではないという点である。

 したがって、労災保険制度による補償を受けても、労災保険給付の価額の限度を超える損害については、使用者は民法上の損害賠償責任を免れられないことになる。

(3) 使用者が民事上の損害賠償責任を追及される法的構成は、不法行為責任(民法709条、715条、717条)と、労働契約の附随義務としての安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任(民法415条)である。

 今日では使用者の安全配慮義務の概念は判例上も確立されており、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者 の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(川義事件 最判昭59・4・10)とされている。

 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償の範囲は、財産的損害のうち積極損害(治療費、入院費、付添費、葬儀費など)と消極損害(休業損害、後遺障害または死亡による逸失利益)及び慰謝料等である。

 事例としては、労災事故で頸椎損傷による障害等級1級の後遺障害を負った被害者とその妻が損害賠償請求を行い、被告会社(中小企業)に安全配慮義務違反があったとして、総額1億6500万円の支払を命じた下級審判例等がある(横浜地判平6・9・27)。

(4) 安全配慮義務違反による損害に含まれる入通院や後遺症等による精神的損害に対する慰謝料に対しては労災保険給付はなされない。また、休業補償については労災保険給付の対象となっているが、平均賃金の60パーセントしか支給されない。したがって、使用者側に帰責事由がある限り、労災給付されない民事上の損害について賠償する必要がある。

 なお、休業損害については20パーセントの休業特別支給金が支払われるが、判例はこの支給金は労働福祉事業の一環であり、損害の填補の性質を有するのもではないとの理由で民事損害賠償における損害額から控除することはできないとしていることにも注意していただきたい(最判平8・2・23)。

 よって、会社は、甲に労災保険金の給付がなされたとしても、それにより補填されないものについては、甲に対して損害賠償しなければならない。

3 プールした手当

入管法改正前においては、研修生に手当として支給される金銭の一部を逃亡防止のためにプールする慣行が横行し、大きな問題となっていた。
しかし、上述のとおり、入管法改正により外国人技能実習生にも労働基準法の適用が認められ、更に厚生労働省労働基準局長「技能実習生の労働条件の確保について」(平成22・2・8基発0208第2号)でも、直接技能実習生に、賃金の全額を毎月1回以上、一定期日に支払わなければならないこと、賃金の控除については、法令の定めのある場合や事理明白なものについて法定の労使協定を締結した場合のみ認められるとした。

 したがって、本件の場合でも、労働基準法24条により、会社は甲に対し賃金を全額支払わねばならず、甲代理人弁護士に対しプールした賃金全額を直ちに返還しなければならない。